注意! これは神戸大学病院医学部5年生が提出した感染症内科臨床実習時の課題レポートです。内容は教員が吟味し、医学生レベルで合格の域に達した段階 で、本人に許可を得て署名を外してブログに掲載しています。内容の妥当性については教員が責任を有していますが、学生の私見やロジックについてはできるだ け寛容でありたいとの思いから、(我々には若干異論があったとしても)あえて彼らの見解を尊重した部分もあります。あくまでもレポートという目的のために 作ったものですから、臨床現場への「そのまま」の応用は厳に慎んでください。また、本ブログをお読みの方が患者・患者関係者の場合は、本内容の利用の際に は必ず主治医に相談してください。ご不明な点がありましたらブログ管理人までお問い合わせください。kiwataアットmed.kobe-u.ac.jp まで
感染症内科BSLレポート~薬疹の分類~
薬疹は入院患者の2-10%で出現する。発疹型は麻疹様発疹(91%)、膨疹(6%)の頻度が高いとされるが実際にはさまざまな皮疹形態を示すため、薬剤使用中に新たな皮膚症状が生じた場合は薬疹を疑う必要がある。全ての薬剤が薬疹の原因となる可能性があり、特に注意すべき薬剤として、抗痙攣薬(phenytoin、carbamazepine、phenobarbital等)、NSAIDs、サルファ薬、penicillin、造影剤、生物製剤等が挙げられる。病因はアレルギー性と非アレルギー性に大別され、アレルギー性機序では薬剤特異的T細胞による細胞性免疫が多いとされる。薬疹が疑われた際には、重症化し生命に関わる可能性がある重症薬疹かそれ以外かを発症早期に鑑別することが重要である。次に軽症薬疹と重症薬疹の特徴を示す。
<主な軽症薬疹>
○紅斑丘疹型薬疹(原因:抗菌薬、sulfonamides)
薬剤開始後1週間以内に発症する。体幹や四肢の近位に紅斑・丘疹が多発し、びまん性に癒合することもある。粘膜症状は生じない。
○蕁麻疹/血管性浮腫(原因:ACE阻害剤、aspirin、penicillin、血液製剤等。)
薬剤開始後数時間以内に掻痒を伴う様々な大きさの紅斑膨疹が生じ、発症後24時間以内に消失する。
○固定薬疹(原因:phenolphthalein、tetracycline、barbiturate、sulfonamides、NSAIDs、salicylates)
薬物内服後数時間以内に発症する。皮膚粘膜移行部(口唇、口腔粘膜、生殖器)に境界明瞭な紅斑を認めた後に色素沈着を残し、原因薬物の投与が繰り返されると同部位に再発することが特徴である。
○光線過敏症(原因:NSAIDs, quinolones, tetracyclines, amiodarone, phenothiazines)
日光照射後数分から数時間以内に発症する。日光照射部位の広範な湿疹を特徴とする。
<重症薬疹>
○Stevens-Johnson症候群/中毒性表皮壊死剥離症(TEN)(原因:salfonamides、nevirapine、alloprinol、lamotrigine)
薬物開始後5-28日で発症し、標的状皮疹上の小水疱や粘膜病変(発赤・2か所以上のびらん・暗赤色斑)をきたす。先行する発熱、呼吸器障害を伴うことが特徴である。
○過敏症症候群(DRESS/DIHS)(原因:抗痙攣薬、allopurinol、salfonamides)
薬剤開始後2-8週間で発症し、全身の紅斑丘疹と顔面・口唇の発赤腫脹を伴う。粘膜病変はまれで、発熱、圧痛を伴う全身性リンパ節腫脹、HHV-6の再活性化が特徴である。その他、発熱、白血球増加、肝炎、腎炎など多彩な全身症状を呈する。
○血管炎(原因:allopurinol、minocycline、propylthiouracil、penicillins、cephalosporins、sulfonamides、phenytoin)
薬剤開始後7-10日で発症し全身性あるいは下肢に限局した浸潤を触れる紫斑、点状出血、発熱を特徴とする。
○急性汎発性膿疱症(AGEP)(原因:penicillins、macrolides、Ca拮抗薬)
薬物投与後24時間以内に発症する。顔面や間擦部位の浮腫状紅斑上に非毛包性膿疱が出現し、全身に拡大・癒合して浅い潰瘍を形成する。発熱、好中球優位の白血球増多(7000/μL以上)が認められる。
その他、急速な進展、関節痛、好酸球増加(>1000/μL)も重症薬疹を示唆する所見である。また遺伝因子と特定の薬剤に対する薬疹発症は関連しており、病歴聴取も重症薬疹を鑑別する上で重要である。
薬疹が疑われた場は、①原因薬物の検索、②原疾患の重症度、③薬疹の重症度、④代わりとなる治療法を考慮する。原則被疑薬は全て中止するが、軽症薬疹であれば慎重に継続使用してもよい。
参考文献
(1)Harison’s Principles of Internal Medicine 18ed 432-440
(2)medicina 内科医のための皮疹の観かたのロジック 医学書院
(3)Drug eruptions [Up to date]
(4)ジェネラリストのための内科診断リファレンス 651-653
(5)Kaniwa N., et al. HLA-B locus in Japanese patients with anti-epileptics and allopurinol-related Stevens-Johnson syndrome and toxic epidermal necrolysis. Pharmacogenomics. 2008;9:1617–1622.
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