シリーズ 外科医のための感染症 19. 泌尿器科篇 腎移植と感染症
腎移植とそれにまつわる感染症について、一項だけでまとめるなんて、狂気の沙汰です。もちろん、そんなことはできません。詳しくは
腎移植感染症マニュアル 東京医学社(2013)
などをご参照ください。岩田も少し、書いています。BKVとかアデノとか、EBV関連リンパ増殖性疾患などマニアックなトピックはむしろみなさんよく御存知でしょうから、ここでは割愛。本項は岩田がよく見るピットフォールについて。
さて、腎移植患者において、一番よくあるエラーは
「この患者は免疫抑制者だから、「易感染性」があるから」
といって、思考停止に陥ってしまうことです。そして、メロペネムのような広域抗菌薬をボンと落として、よしとしてしまう。
逆です。免疫抑制者で、易感染性がある患者だからこそ、発熱時などには一所懸命考え、そして原因を突止めなければいけません。院内発熱の基本的な3点セットを端折ってはいけません。基本的な発熱原因は移植患者でも同じです。感染症と非感染症に分けて、ひとつひとつ丁寧に吟味していきます。
「あえて」言うならば、腎移植患者の感染症は、「比較的御しやすい」感染症です。血液系の移植患者よりははるかに楽だし、縫合不全が(比較的)多い肝移植後の患者よりも楽です。心臓移植(こちらは岩田は経験値が低いですが)と、腎移植は感染のリスクがもっとも低い移植の一つなのです。
そして、腎移植患者が発熱したとき、その原因を突止めることも、その原因に対処することも相対的には難しくありません。なので、慌てず騒がず一つ一つ指差し点検して行けばよいのです。一番行けないのは、「とりあえず」と爆弾を落とすようにカルバペネムかなにかをドン、と行ってしまうことです。
移植術後の患者であれば、多いのはSSIと尿路感染です。腎移植後のSSIは体表に移植腎が近いこともあり、むしろ診断は容易です。尿路感染も同様で、下腹部に「圧痛」を認める、、、、腎盂腎炎の身体診察の応用編です。
抗菌薬選択にも気をつけましょう。よく用いられるマクロライド(アジスロマイシン)やキノロン、それからフルコナゾール(ジフルカン)などのアゾール系抗真菌薬は、シクロスポリンやタクロリムスといった免疫抑制剤と相互作用を起こすことが多く、使いづらいです。βラクタム薬を用いていれば比較的問題は少ないでしょう。その他の相互作用については、必ずePocratesなどで確認します。たとえば、「ダプトマイシン使おうかな」と思ったら、必ずスマホでチェック。そうすると、ミコフェノール酸モフェチル(セルセプト)の血中濃度を下げるかも、、と注意書きがしてあります。こういうのを全部暗記する必要はありません。必ず指差し点検、が大事なのです。感染症は基本、指差し点検の領域です。
腎移植患者は虎の子の腎臓が一個だけあるので、腎負荷の強いアミノグリコシドやグリコペプチド(バンコマイシン)などはできるだけ避けると思います。
熱が下がらないとき、CRPが下がらないときも、慌てて「抗菌薬を替える」ではいけません。これは総論でも申し上げましたが、腎移植患者でもこの原則は変わりません。大事なのは、
「なぜ、熱が下がらない」です。
よく見るのが、CMV疾患です。CMVは頭、脊髄、肺、眼、肝臓、腸、副腎などありとあらゆるところに病気を起こしますから、なにかおかしなことがあったら、「CMVではないか」とあたりをつけていくべきだと思います。
なお、CMVアンチゲネミア検査は、血中にCMVがいる、という存在証明にはなりますが、「疾患の証明」にはなりません。CMVみたいなヘルペス属のウイルスは一回感染すると絶対に身体から出ていきません。その「出ていかない」CMVがたまたま血中の白血球に取り込まれているのが「アンチゲネミア陽性」の意味です。それは将来のCMV diseasesを予測するものではありますが、決して「疾患そのもの」ではありません。CMV diseasesの診断は、あくまでも発症臓器でCMVを見つけることでなされます。
ニューモシスチス肺炎(PCP)だと思って治療していて、よくならなくて、なんか亜急性の肺炎、、というのは典型的にCMVが原因のことが多いです。PCPもβDグルカンだけで診断できるわけではありません。ちょっと日本のドクターは血液検査と画像検査に「頼り過ぎ」な傾向があります。頼ってもよいですが、「頼り過ぎ」はよくありません。PCPと思っていてもそれっぽくない、、、というストーリーからCMVを想起します。やはり確定診断は気管支鏡により「そこ(サットンさんが狙うところ)」に入っていくのが一番です。それにしても、気管支鏡が上手でかつ「その異議」が分かっている呼吸器内科医が仲間にいると、本当に頼りになりますよねえ。
まあ、このへんがよくあるピットフォールって所でしょうか。これ以上ヤヤコしい事態に巻き込まれたら、、、そのときは感染症屋に「まるなげ」でOKだと思います。
まとめ
・移植患者であっても、感染症診療の原則は同じ。易感染性だからこそ、熱の原因は一所懸命さがしにいく。
・薬物相互作用に要注意。暗記せずに、チェックする、が大事
・熱が下がらないといって「抗菌薬を替えて」はならない(増悪時はその限りに非ず)。
・CMVは一所懸命さがしにいく。アンチゲネミア陽性=病気の診断ではない。
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