シリーズ 外科医のための感染症 36. 脳外科篇 術後髄膜炎診断治療の大原則
院内で髄膜炎になることはめったにありませんが、ひとつだけ例外があり、それが脳外科術後の患者さんです。
細菌性髄膜炎は予後の悪い病気です。多くの場合は血液培養も陽性になり、全身感染症の一亜型としての髄膜炎です。しかし、脳外科術後の患者さんは、手術時に創部から細菌が侵入して感染を起こすケースが多く、全身感染症を伴わないことも多いです。予後は(市中髄膜炎に比べると)ずっとよく、治療がうまくいくことがほとんどです。
診察上の所見は熱だけで、ショックになったりするケースは少数派です。ただし、すでに意識状態はよくなく、首も(くも膜下出血などで)がちがちになっていたりしますから、診察では診断はできません。髄液検査もすでに異常がデフォルトですので、分かりづらいです。髄液の赤血球・白血球比を測って「期待される以上の」白血球数があれば髄膜炎を考えますが、これを検査室でやってもらうためには有効なコミュニケーションが必要です。好中球優位であれば可能性が高まる、という研究もあるみたいです。プロカルシトニンとか使えば細菌性髄膜炎が分かるかも、という研究もありますが、結果はぱっとしないものでした(Choi S-H, Choi S-H. Predictive performance of serum procalcitonin for the diagnosis of bacterial meningitis after neurosurgery. Infect Chemother. 2013 Sep;45(3):308–14)。
エンピリカルにはMRSAのカバーにバンコマイシン、グラム陰性菌のカバーにセフタジジムを使い、培養結果を見てde-escalationというパターンが多いです。岩田たちはあまりやりませんが、髄液内バンコマイシンやアミノグリコシドの注射なども教科書的には記載があります。βラクタム薬は毒性が強すぎて、髄液内注射はできません。
治療期間ははっきりしませんが、まあ21日間(3週間)くらいでしょうか。髄液培養が陰性の時にはaseptic mengitisとして抗菌薬を切っても予後は悪くなかった、という小規模の研究があります(Zarrouk V et al. Evaluation of the management of postoperative aseptic meningitis. Clin Infect Dis. 2007 Jun 15;44(12):1555–9)。我々も基本的には髄液培養陰性を確認したら抗菌薬オフで様子を見ます。中枢熱や腫瘍熱など、脳外科の患者は熱を出しやすいですから。術後の発熱も脳外科の場合は数週間遷延することもあり、感染症以外のウエイトが占める割合は大きくなっています。
VPシャントなどデバイスがある場合は抜去が基本です。体外シャントなどに一時的にしてもらい、ほどよいところで入れなおしてもらいます。やはり異物があるとバイオフィルムを形成して治療を内科的に行うのは困難だからです。
まとめ
・脳外科では髄膜炎は多い。
・診断は難しい。髄液培養は有用(かも)。
・治療についても質の高いエビデンスは希薄。経験的に治療していることが多い。
文献
Stenehjem E and Armstrong WS. Central nervous system device infections. Infect Dis Clin N Am 2012;26:89-110.
Baddour LM, Flynn PM, Fekete T. Infections of central nervous system shunts and other devices. UpToDate last updated Oct 30, 2013.
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