シリーズ 外科医のための感染症 21. 心臓血管外科篇 胸骨骨髄炎
心臓の手術では胸骨を切ることが多く、術後の骨髄炎が問題になります。
診断は外科の先生の「なんか違う」がポイントになることが多いです。胸骨の離解、動揺、CTでの胸骨破壊像や水の溜まりなども参考になりますが、術後の変化でも説明できるものばかり。熱や炎症反応も、他の熱源と区別してはくれません。身体診察でも胸骨上の皮膚炎症があれば診断は簡単ですが、ない場合は胸郭を(胸骨ではなく)両手で両側から触診して軽く圧をかけ、胸骨上の痛みを誘発したりします。でも難しいときは難しいです。皮膚の炎症所見があってもなくても、深部SSIの存在、非存在を語るのは難しいのです。
同様にその下にある縦隔炎も、診断は難しいことがあります。術後の水や血腫と感染症を区別するのは画像ではしばしば困難です。最終的には再開胸をしていただいて診断することもままあります。洗浄、ドレナージ、VACとともに抗菌薬治療を行います。このへんは深部SSIの項でもご説明申し上げました。
治療はMRSAカバーのためにバンコマイシンを使うことが多いです。重症であればグラム陰性菌もカバーし、培養結果を見てde-escalationします。治療期間は最低4週間、急性骨髄炎の治療期間と同じです。縦隔炎は再発するととても厄介なので、CRPの陰性化などはきっぱり無視して治療を完遂します。治療期間はとても重要なのですが、外科系感染症の教科書にも案外記載がないですね。抗菌薬は「どの」抗菌薬を選ぶか、も大事ですが、投与量、投与間隔、投与期間も大事なことをお忘れなく。
文献
柚木靖弘、種本和雄. 心臓血管外科領域感染症. In. 周術期感染症テキスト 診断と治療社 2012
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