シリーズ 外科医のための感染症 21. 心臓血管外科篇 感染性心内膜炎
実を言うと、心臓血管外科の先生方に感染性心内膜炎(infective endocarditis , IE)について申し上げることはあまりありません。むしろ、心臓の先生以外のドクターに対して申し上げることのほうがずっと多いです。
というか、岩田の意見では、本来IEは心臓血管外科の先生の手を煩わす病気であってはならないのです。我々内科医だけで診断し、治療すべきです。
それができないのは、診断が遅れるからです。そのため、「手術しないと治せない」状況に陥ってしまいます。それで外科の先生がたにご相談せざるを得なくなるのです。
IEの患者は、初診で心臓の専門家を受診することはまずありません。発症初期には心臓の症状がまったくないからです。心筋炎、心外膜炎といった心臓の炎症性疾患(含む感染症)が胸の症状が比較的露骨なのに対して、IEは熱、倦怠感といった漠然とした症状しか示しません。そこで一般開業医を受診したり、椎体炎を合併して整形外科を受診したりするのです。腎不全のため透析を受けている患者は血流感染、あるいはIEを発症しやすいので、そういう患者が熱を出したときは主治医の腎臓内科医を受診することもありますね。心不全や不整脈といった「心臓の症状」が出るようでは、遅すぎるのです。
逆に言えば、そういう熱などの漠然とした症状「だけ」の患者を診た場合には、真っ先にIEを疑うべきなんです。
IEの診断はそれほど難しくはありません。多くの場合はきちんと血液培養と心エコー(経食道エコー)を行えば診断可能です。例外的に、血液培養で見つからないようなIEもありますが、そういうときは我々感染症屋を呼んでいただければお手伝いします。
神戸大学病院で見た82例のIE患者で、初診でIEが疑われたのはたったの12%。多くは初診で、一般内科医、整形外科医、それに腎臓内科医を受診していました。65%のケースでは不適切な経口抗菌薬が処方されており、診断の遅れの原因となっていました。受診後診断までの中央値は14日、もっとも遅いときは診断に1年もかかっていました。手術を必要とする患者は71%もいました。神戸大の心臓血管外科が優秀で、そういう患者が紹介されやすいという面もありますが、それにしても大問題です。
逆に、心不全や多発脳梗塞、不整脈などIEの手術適応がある場合には早期の外科的治療(手術)が予後を改善してくれます。こういうIEは治療を完遂して「細菌を殺しても」長い合併症に苦しむ患者を作ってしまいがちです。外科医が必要なIEになる前に診断、、、心臓血管外科の先生たちが「心内膜炎?そう言えば昔はそういうの手術していたなあ」と遠い目をして言っていただけるような時代が早く来てほしいものです。かつての胃潰瘍みたいに。
本項は、2014年バルセロナで行われたEuropean Society of Clinical Microbiology and Infectious Diseases(ESCMID)の年次総会での福地貴彦先生(感染症内科大学院生)の発表を参照しました。いいなあ、バルセロナ。
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