シリーズ 外科医のための感染症 コラム よく分かんない、クラミジア・淋菌試験
クラミジアと淋菌については様々な遺伝子検査が現在使用されています。
古典的なDNAプローブ、PCR (polymerase chain reaction)だけでなく、TMA (transciption mediated amplification) , LCR (ligase chain reaction), SDA (strand displacement amplification)など、たくさんの検査が存在します。とくにSDAは咽頭の検査にも適応があり、また他の(性感染症を起こさない)クラミジアやナイセリアとの交差反応もなくて、クラミジア咽頭炎の診断には有用です(笹原徹平. 感染症検査 クラミジア感染症検査./淋菌同時核酸同定 内科. 2013;111:1479-1480、笹原徹平. 感染症検査 クラミジア感染症検査核酸同定 内科. 2013;111:1478)。
TMAはPCRみたいに温度を上げ下げしないとか、LCRはプローブ分子を使うとか、SDAでは増幅と検出が同時進行だとか、いろいろテクニカルな特徴があるようですが、問題のポイントはここではありません。
何を問題にしたいのかと言いますと、これらの検査が日本では男性の尿(初尿)では保険適応があるのに、女性の尿では保険適応がないってことです。女性の場合は膣分泌物など生殖器からの検体でないといけません。ぼくはこれが、昔から不思議でした。
なぜなら、諸外国では女性の尿も検査できたからです。遺伝子検査にはいろいろありますが、尿と生殖器では、その感度・特異度はどちらも遜色ありません(たくさんのデータがありますが、例えば 金山明子ら. 男女尿検体におけるStrand displacement (SDA)法を用いたChlamydia trachomatis およびNeisseria gonorrhoeaeの検出. 感染症誌 2008;82:182-186など)。女性の検体では阻止物質が存在して検査の偽陰性のリスクがある、なんて文章を見たこともありますが、それが本当に感度・特異度に影響を与えるほどのものかは不明です。世の中にはもっともっと感度も特異度もアヤフヤな、「役に立たない検査」が保険収載されているのに、です。いずれにしても、なぜ生殖器からの検体はよくて尿はだめなの?という説明にはなりません。
このあいだも、STDの検査が必要なんだけど内診は頑に拒む患者さんがいました。こういう患者さんの適切な検査と治療を阻害している現状は、よろしくないと思います。
なぜ、女性の尿はクラミジアや淋菌検査の検体として認められないのか。なぜ日本でだけそうなのか。ぼくはその問題に対する「仮説」は持っていますが、ここでは述べません。各自で考えてみてください。いずれにしても、この問題も「ここがヘンだよ、日本人」的な問題なのだと思います。
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