注意! これは神戸大学病院医学部5年生が提出した感染症内科臨床実習時の課題レポートです。内容は教員が吟味し、医学生レベルで合格の域に達した段階 で、本人に許可を得て署名を外してブログに掲載しています。内容の妥当性については教員が責任を有していますが、学生の私見やロジックについてはできるだ け寛容でありたいとの思いから、(我々には若干異論があったとしても)あえて彼らの見解を尊重した部分もあります。あくまでもレポートという目的のために 作ったものですから、臨床現場への「そのまま」の応用は厳に慎んでください。また、本ブログをお読みの方が患者・患者関係者の場合は、本内容の利用の際に は必ず主治医に相談してください。ご不明な点がありましたらブログ管理人までお問い合わせください。kiwataアットmed.kobe-u.ac.jp まで
感染症内科BSLレポート 肝膿瘍の診断と治療について
【概要】 化膿性肝膿瘍は腸管の内容物が腹腔内に漏れ出て生じた腹膜炎に引き続いて起こることが多く、門脈を通じてまたは胆嚢感染から直接波及して生じる。糖尿病や膵・胆道系疾患の既往、肝移植などがリスク因子である。肝膿瘍全体の95%以上を細菌による化膿性が、残る5%未満をアメーバ性が占め、一部に真菌性を含む※1。化膿性肝膿瘍の起炎菌K.pneumoniae(最多)とE.coliが多く、両者の合計は約90%に達する※2。
アメーバ性肝膿瘍の患者背景については、男性(頻度88%)・海外渡航歴(同81%)・梅毒既感染(同72%)・ホモセクシャル(同46%)である。また、免疫不全患者に対してはカンジダを含む真菌性肝膿瘍を考慮する。
【身体所見】 発熱(約90%)・腹痛(50~75%)・肝腫大(約50%)の順に頻度が多い(PLA’s triad)※3。
【診断】診断はCT(単純+造影)または超音波を用いた画像所見と、血液検査や血液培養検査を組み合わせて行う※3。各検査の感度は、白血球増多(73%)、好中球増多(90%)、AST上昇(58%)、ALT上昇(61%)、Bil上昇(57%)、血液培養陽性(67%)、腹部エコー(95.7%)、腹部CT(99.5%)※4である。尚、腹部造影CTの所見は、スムースな辺縁(92%)・辺縁の造影良好(92%)・円形/類円形(79%)の順に頻度が多い※5。
【治療】 膿瘍自体については、膿瘍径と内容物の性状により針吸引または経皮的/外科的ドレナージを用いる。抗菌薬は、下表の通り起炎菌に応じて選択する※6。
病原菌 |
1st Line Agent |
2nd Line Agent |
嫌気性菌 |
メトロニダゾール |
ピペラシリン-タゾバクタム、アンピシリン-スルバクタム、イミペネム、メロペネム、 ドリペネム、クリンダマイシン |
腸球菌 |
ピペラシリン、アンピシリン |
バンコマイシン、ゲンタマイシン、 リネゾリド、ダプトマイシン、 |
黄色ブドウ球菌 |
セファゾリン(for MSSA) |
バンコマイシン、リネゾリド、ダプトマイシン |
コアグラーゼ陰性ブドウ球菌 |
バンコマイシン |
ダプトマイシン、リネゾリド |
連鎖球菌 |
ペニシリン、アンピシリン |
第1/2/3世代セファロスポリン |
緑膿菌 |
ピペラシリン、セフェピム、セフタジジム、ピペラシリン-タゾバクタム |
イミペネム、メロペネム、ドリペネム、シプロフロキサシン |
赤痢アメーバ |
メトロニダゾール+パロモマイシン |
チニダゾール+ヨードキノール |
カンジダ |
アムホテリシンB、フルコナゾール |
ボリコナゾール、カスポファンギン、ミカファンギン |
エキノコックス |
外科的切除、PAIR procedure |
アルベンダゾール |
・参考文献
※1 医学書院 医学大辞典 第2版「肝膿瘍」より
※2 Comparison of pyogenic liver abscesses of biliary and cryptogenic origin. An eight-year analysis in a University Hospital.
-Swiss Med Wkly. 2005; 135: 344-51
※3 Pyogenic liver abscess -http://www.uptodate.com/contents/pyogenic-liver-abscess
※4 Characteristics of pyogenic liver abscess patients with and without diabetes mellitus.
-Am J Gastroenterol. 2010 Feb:105(2):328-35
※5 Diagnosis of bacterial hepatic abscess by CT. -Hepatobiliary Pancreat Dis Int.2007; 6: 271-5
※6 Johns Hopkins ABX Guide from Unbound Medicine
医学書院 今日の消化器疾患治療指針 第3版「肝膿瘍」より
HARRISON’S PRINCIPLES OF INTERNAL MEDICINE 18th Edition/ハリソン内科学 第4版
Cryptogenic pyogenic liver abscess as the herald of colon cancer. -J Gastroenterol Hepatol 2012 feb:27(2):248-55
Analysis of 69 patients with amebic liver abscess. -J gastroenterol.1996 Feb; 31(1): 40-5
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