注意! これは神戸大学病院医学部5年生が提出した感染症内科臨床実習時の課題レポートです。内容は教員が吟味し、医学生レベルで合格の域に達した段階 で、本人に許可を得て署名を外してブログに掲載しています。内容の妥当性については教員が責任を有していますが、学生の私見やロジックについてはできるだ け寛容でありたいとの思いから、(我々には若干異論があったとしても)あえて彼らの見解を尊重した部分もあります。あくまでもレポートという目的のために 作ったものですから、臨床現場への「そのまま」の応用は厳に慎んでください。また、本ブログをお読みの方が患者・患者関係者の場合は、本内容の利用の際に は必ず主治医に相談してください。ご不明な点がありましたらブログ管理人までお問い合わせください。kiwataアットmed.kobe-u.ac.jp まで
糖尿病性足壊疽の治療
■腫脹、紅斑、圧痛、熱感、膿などがある場合(感染がないもの)⇒抗菌薬は使用しない。
末梢動脈病変や末梢神経障害があれば治療する。なければ除圧やフットケアなどの保存的治療。*1
■感染があるもの
●内科的治療
IDSAのガイドラインでは、紅斑の大きさ・潰瘍の深さ・SIRSの基準によって重症度判定を行い、感染の重症度によってエンピリック治療を行う。一般には、膿、紅斑、熱感、圧痛などの局所症状や発熱、頻脈、血圧低下などの全身症状から判断する。敗血症などの全身性の症状があれば重症と判断する。*1・2
◇軽度・中等度の感染⇒グラム陽性球菌をターゲットとした治療を開始する。(escalation therapy)
◇重症の感染⇒グラム陰性菌までをカバーした広域スペクトラム抗菌薬のエンピリック治療を行う。培養結果や抗菌薬に対する感受性テストの結果、患者の初期治療に対する反応によって、薬剤の変更を考慮する。(de-escalation therapy)
治療期間は、軽度であれば1~2週間、中等度・重症例では2~3週間の抗菌薬投与を行う。骨髄炎を起こしていれば、長期間の治療が必要となり、2~6週間の注射、その後6週間~2ヶ月程度の抗菌薬投与を行う。*3
☆嫌気性菌、緑膿菌、MRSAについて*1
・適切にデブリードマンされた糖尿病性足壊疽のほとんどでは嫌気性菌をカバーする抗菌薬を使う必要がないとの報告がある。
慢性、重症の糖尿病性足壊疽では嫌気性菌が検出されることが多く、嫌気性菌をカバーする抗菌薬を使う。
・緑膿菌をカバーする抗菌薬は重症の感染がある場合や、緑膿菌をカバーしていない抗菌薬で効き目がなかった患者でエンピリック的に使われる。実際、創部から緑膿菌が検出されるのは10%以下であり、たとえ検出されたとしてもカバーしていない抗菌薬でよくなることが多い。
・MRSA感染の既往がある場合、骨髄炎がある場合、地域的にMRSAの頻度が高い場合、重症患者ではMRSAに対するエンピリック治療を考慮する。
●外科的治療*1
壊死部分の除去…デブリードマン、アンプテーション
壊死物質や仮骨をすべて取り除く。
血流の回復…バイパス手術
臨床的に重症である場合は積極的に血行再建を行うほうがよい、と多くの施設が報告している。
全身状態が悪ければ手術適応外となることもある。その場合は長期の内服治療を行う。
●コンサルテーション*1
・感染症、臨床微生物学の専門家
・血管外科(著しい虚血がある場合)
・整形外科(デブリードマンなどの外科的処置に慣れていない場合)
・フットケアの専門家(減圧、ドレッシング術)
【参考文献】
*1IDSA GUIDELINES 2012.6.15 132-164
*2 病院内/免疫不全関連感染症診療の考え方と進め方 編集:IDATENセミナーテキスト編集委員会 医学書院
*3 レジテントのための感染症診療マニュアル 第2版 青木眞 医学書院
*4 ジェネラリストのための内科診断リファレンス 上田剛士
*5 臨床感染症ブックレット7 前崎繁文、大曲貴夫 文光堂
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