神戸新聞に17日に出しました。ここに再掲します。
毎年冬になると、ノロウイルスによる胃腸炎が流行します。日本のみならず、世界最大の嘔吐・下痢の原因です。1月28日のテレビ報道によると、米国のクルーズ船内でノロウイルスが原因と思われる嘔吐・下痢が626人に見られているそうです。
ノロウイルスは非常に感染力が強く、発症もしやすく、消毒にも強いという非常にやっかいな病原体です。免疫もつきにくいので何度も感染、発症しますし、ワクチンも開発できていません。有効な治療薬も存在しません。徹底的な消毒や手洗いが重要とされていますが、それくらいしか対応策がない、という意味でもあります。現段階では、ノロウイルス感染症を完全に予防するのは不可能でしょう。
とはいえ、今より少しましになる方法を提案します。昔の微生物学者、ルイ・パスツールは「病原微生物は自然発生しない」ことを証明しました。感染症には感染経路が必要で、その経路を最小限にすれば感染症は減らせます。
ノロウイルスの場合、特に問題になるのが飲食物、そして人の「手」です。1月28日の新聞報道(ウェブ)によると、浜松市の小学校で発生したノロウイルスによる集団食中毒は、給食用の食パンの検品時に感染が広がった可能性が高いと言います。焦げ目や油かすの付着がないか調べるため担当者がパンの裏表を確認していたそうです。
こうした業務を全廃すれば、感染症のリスクは若干は減らせます。感染症の原因は肉眼では見えません。ちょっとくらいのパンの焦げ目や油かすなんて、健康への影響はほとんどゼロです(毎日大量に食べれば別ですが)。どうしても気になる子どもは、自分で確認して取ればよいだけの話です。形式的な手続きや、見た目にこだわるから、本質的な失敗をするのです。形式が本質をしのぐ失敗例は、日本には数多くあります。
もう一つ、ノロウイルス腸炎やインフルエンザにかかった人は、回復するまで家でしっかり休養をとり、学校や仕事に行ってはいけません。上司の理解が得られず病気のままで仕事を強いられている患者を目にします。「仕事はどうしても休めない」と言われる人が多いですが、その人が職場で感染を広め、多くの患者を作ってしまったら、かえって業務は滞ります。長期的に考えれば、1人の病欠は、感染症の集団発生よりもはるかにましです。
ノロウイルス腸炎には特効薬がありませんが、しっかりと水分を補給して脱水を防いでいれば数日で自然に治る病気でもあります。水分補給ができる人は水分をとって病院に「行かない」ことも大事です。患者から感染した医者や看護師が大量発生すると、医療の維持もままなりません。そういう視点も大事です。
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