注意! これは神戸大学病院医学部5年生が提出した感染症内科臨床実習時の課題レポートです。内容は教員が吟味し、医学生レベルで合格の域に達した段階 で、本人に許可を得て署名を外してブログに掲載しています。内容の妥当性については教員が責任を有していますが、学生の私見やロジックについてはできるだ け寛容でありたいとの思いから、(我々には若干異論があったとしても)あえて彼らの見解を尊重した部分もあります。あくまでもレポートという目的のために 作ったものですから、臨床現場への「そのまま」の応用は厳に慎んでください。また、本ブログをお読みの方が患者・患者関係者の場合は、本内容の利用の際に は必ず主治医に相談してください。ご不明な点がありましたらブログ管理人までお問い合わせください。kiwataアットmed.kobe-u.ac.jp まで
HBVの暴露前予防として、主に医療従事者やHBs抗原キャリアの家族やその性的接触者などがB型肝炎ワクチンを接種する必要がある。定期接種は、0,1,6ヶ月の計3回を1コースとして行われる。1)1コース目終了時に抗体を獲得するのは、健常者で95%、有病者では50~60%である。2) 1コース目のワクチン接種終了後にHBVに対して十分な抗体が産生されていないワクチン不応者に追加で2コース目の接種を行った場合、抗体を獲得するのは50%である。2)ワクチン不応者に対して、免疫応答能を2コース目以降の接種で改善させるためには以下のような方法が挙げられている。
1)以前に筋肉内注射されていた患者であれば、皮内注射にする。ただし、皮内注射の場合十分な技術がなく皮下に注射された場合は効果が失われてしまう。2)4)
2)ワクチンの投与量を倍にしたり、免疫補助剤やpreS1やpreS2などの外膜タンパクを追加したもの(BimmugenRやHEPTAVAX-ⅡR)を接種する。1回の接種で2倍量のワクチンを接種した際、64~70%の患者で抗体が得られた。2)5)
3)ワクチン不応者にHAVとHBVのワクチンを合わせた混合型のワクチン(TwinrixR)を0,1,6ヶ月と3回接種すると、95%の人にHBVに対する抗体が得られた。2)4)
4)2週間ごとに4回ワクチンを接種すると94%の人が抗体を獲得した。このレジメンで行った場合、注射部位の紅斑性丘疹や一過性の色素沈着が副作用としてみられたが、1コース目をスケジュール通りに接種した場合と副作用に有意な差はみられず、発熱などの副作用も報告されなかった。4)6)
また、研究中ではあるが,HBV-ISS(免疫賦活化のためにホスホロチオエートオリゴデオキシリボヌクレオチドを膜表面につけたB型肝炎)のワクチンを2回接種すると、組換え型のワクチンを3回接種するよりもよい効果が得られた。副作用としては、接種部位の疼痛や発熱・倦怠感がどちらのワクチンを接種してもみられた。2)
このようにワクチン不応者に対して接種方法はいくつかあるが、2コース目終了後もワクチン不応の場合であっても、ある程度十分な免疫応答やHBV感染からの回復が期待できる。また、2コース目終了後のワクチン不応者に対しては、HBs抗原の検査を行う必要がある。3)HBs抗原が陽性であった場合、すでにHBVキャリアになっているので、HBV感染予防のワクチンを投与するのではなく、HBV感染者として扱う。
以上より、1コース目終了後にワクチン不応であった人でも2コース目のワクチンを接種することで抗体獲得率が上がるので、HBVに暴露する頻度が多い人は2コース目のワクチンを接種が必要である。2コース目のワクチンの選択については、抗体を獲得した割合から考えると2週間ごとに4回ワクチンを接種することや混合型のワクチンを接種することが、ワクチン不応者にも有効であると考えられる。
また、2コース目接種後もHBVに対する抗体が獲得できなかった人がHBs抗原陽性の血液に暴露した場合、1週間以内にHBVに対する免疫グロブリン(HBIG)を投与することによって、HBV感染を75%防ぐことができる。周産期における胎児へのHBV暴露に対して、HBIGとHBVワクチン投与を併用することは、HBIG単独よりも効果があるとされているので、今後成人の暴露の際にも適応されると考えられる。7)2コース目終了後も抗体獲得ができなかった人は、HBVに感染しやすいと認識し、HBs抗原陽性の血液に暴露した際にはHBIGをHBV発症予防のために投与される必要があり、早ければ早いほど効果があると認識することが重要である。8)
<参考文献>
1)Harrison’s Internal medicine 18th
2)Up to date Hepatitis B virus vaccination
3)CDC Hepatitis B Vaccination
4)Cardell K, Akerlind B, Sällberg M, Frydén A J Infect Dis. 2008;198(3):299.
5)Zuckerman JN, Sabin C, Craig FM, Williams A, Zuckerman AJ. BMJ 1997;314:329-33.
6)Playford EG, Hogan PG, Bansal AS, et al. Infect Control Hosp Epidemiol 2002;23:87-90.
7)Plotkin Orenstein offit Vaccines 5th
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