注意! これは神戸大学病院医学部5年生が提出した感染症内科臨床実習時の課題レポートです。内容は教員が吟味し、医学生レベルで合格の域に達した段階 で、本人に許可を得て署名を外してブログに掲載しています。内容の妥当性については教員が責任を有していますが、学生の私見やロジックについてはできるだ け寛容でありたいとの思いから、(我々には若干異論があったとしても)あえて彼らの見解を尊重した部分もあります。あくまでもレポートという目的のために 作ったものですから、臨床現場への「そのまま」の応用は厳に慎んでください。また、本ブログをお読みの方が患者・患者関係者の場合は、本内容の利用の際に は必ず主治医に相談してください。ご不明な点がありましたらブログ管理人までお問い合わせください。kiwataアットmed.kobe-u.ac.jp まで
陰部潰瘍の鑑別
生殖器の潰瘍は感染症と非感染症に分けられ、大部分は性的な感染症によって引き起こされる。
感染症の場合、ヒト単純ヘルペス、梅毒トレポネーマ、軟性下疳菌、クラミジア・トラコマーティス、カンジダ、クラブシエラなどが考えられ、HIVやサイトメガロウイルス、EBウイルス(エプスタインバールウイルス)も潰瘍形成することがある。非感染症の場合には固定薬物反応、Behcet病、新生物(乳房外パジェット病など)、外傷、帯状疱疹、接触性皮膚炎などが考えられる。
臨床評価では様々な観点からアプローチすることができる。最も有用であるのは既往歴、薬歴、性交歴、渡航歴、排尿時痛など、問診により鑑別することである。排尿時痛がある場合、HSV(ヒト単純ヘルペスウイルス)、淋菌などが考えられ、潰瘍が再発性ならば、HSVを疑いHSVを否定した場合はBehcet病や固定薬物反応などが考えられる。また痛みがあればHSVや軟性下疳菌、淋菌、帯状疱疹が考えられ、無痛性の場合は梅毒やLGV(Lymphogranuloma venereum、クラミジアの生物型の一種が引き起こす性病性リンパ肉芽腫のこと。)が考えられる。病変部位によるアプローチでは、水泡性ならばHSV、帯状疱疹が考えられ、丘疹ならば梅毒、軟性下疳菌、性病性リンパ肉芽腫が考えられ、膿胞ならば梅毒が考えられる。また一般的にHSV、軟性下疳菌は多数の潰瘍が生じ、梅毒では単一の潰瘍を形成することが多い。リンパ節によるアプローチでは、鼠径部リンパ節腫脹が性感染症で一般的に見られHSV、LGV、軟性下疳では柔らかく、梅毒では弾性であり、リンパ節に圧痛を伴う場合はHSV、軟性下疳、LGVが考えられる。また陰部以外に発熱、倦怠感、筋肉痛など全身症状が見られる場合はHSV、梅毒、LGV、性病性リンパ肉芽腫が考えられる所見である。
確定診断するためにはそれぞれ疑わしい疾患に特異的な血清反応、培養、生検、抗原検査などで鑑別していくことが必要である。
参考文献
Up to date
“Approach to the patient with genital ulcers”
Authors
Sonia N Chimienti, MD,DonnaFelsenstein, MD 8 13 2012
日性感染症会誌vol.19 No.1 Suppl. 2008
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