注意! これは神戸大学病院医学部5年生が提出した感染症内科臨床実習時の課題レポートです。内容は教員が吟味し、医学生レベルで合格の域に達した段階 で、本人に許可を得て署名を外してブログに掲載しています。内容の妥当性については教員が責任を有していますが、学生の私見やロジックについてはできるだ け寛容でありたいとの思いから、(我々には若干異論があったとしても)あえて彼らの見解を尊重した部分もあります。あくまでもレポートという目的のために 作ったものですから、臨床現場への「そのまま」の応用は厳に慎んでください。また、本ブログをお読みの方が患者・患者関係者の場合は、本内容の利用の際に は必ず主治医に相談してください。ご不明な点がありましたらブログ管理人までお問い合わせください。kiwataアットmed.kobe-u.ac.jp まで
慢性骨髄炎の患者への診断と治療のアプローチについて
慢性骨髄炎とは、菌血症や外傷、連続する軟部組織の感染によって引き起こされる、骨皮質から骨髄の一部あるいは全体に及ぶ感染症である。急性骨髄炎から移行する際、病変部の膿により感染部の血流が停止することで骨組織が壊死を起こし、腐骨と呼ばれる壊死骨が認められるという特徴がある。
【診断】
まず身体所見では、症状として罹患部位の疼痛、圧痛、発赤、腫脹などが挙げられる。しかしこれらの症状の程度や頻度は明らかではなく(4)、末梢循環障害、ニューロパチー、糖尿病やその他の素因を持っている患者では認められないこともある。そのため骨髄炎を疑う患者に問診を行う際はそれらの疾患の有無に加えて、外傷、感染症、手術や人工物の埋め込みの既往をたずねることが重要である。その次に検査所見であるが、血液検査では一般的に特異度の高い所見はなく、白血球やCRP、赤沈は経過を表すパラメーターとして使用される。細菌培養は骨髄炎の診断と治療に欠かせないものであり、閉鎖部位に貯留した膿を穿刺する針吸引や、病巣を直接露出して行うopen biopsyがある。後者の方が菌の検出は正確であり、生検と同時に壊死骨を摘出し循環を評価できるという利点があるが、侵襲が大きいため患者の状態に応じて選択を行うべきであると考える。また創部表面の菌の培養は前述の培養方法に比べて信頼性が劣り、原因菌の特定に寄与するところは少ないとされている(1)。画像所見について、骨単純X線は、骨感染を特徴づける骨破壊、腐骨、骨膜の隆起や腫脹、人口装置周囲の陰影などを簡便に発見することができるが、これらの所見は腫瘍や外傷、痛風などでも認められることがある上、異常所見が認められるのは初感染から10日から14日経過した後(3)(4)であるという問題点がある。MRIは他の診断よりも早期(3~5日)(4)に異常を検出し、感度が69~95%、特異度が38~78%(5)と高く、特に骨周囲の軟部組織を描出することに優れている。骨シンチ(99mTc)は2~3日(4)で異常が現れ、感度はMRIに匹敵するが、特異度が16~36%(5)と高くない点や費用上の問題点が指摘されている。
【治療】
慢性骨髄炎に対して行う治療は大きく分けて外科的治療と内科的治療が存在し、両者を適切に組み合わせて行う。
慢性骨髄炎では、血流の停止によって抗菌薬が病原菌まで到達することが困難であるという特徴があるため、外科的治療として感染部位の徹底的なデブリードマンが推奨される。早期に外科的介入を行うことにより、感染を確認して原因菌を同定するとともに、その増殖や拡散を促す腐骨や周囲の組織を除去することができるという利点がある。
内科的治療としては抗菌薬の静脈内投与がある。抗菌薬の適切な投与期間は、原因菌や感染している骨の状態、薬物耐性など様々な因子によって決まるため、個々の症例について検討する必要がある。投与期間や投与経路には議論があり、4-6週間の静脈投与(1)(3)、最低6週間の静脈投与(2)、2-6週間の静脈投与の後に経口投与に切り替え合計で4-8週間(4)など文献によって推奨するものが異なるが、デブリードマンを行った後の骨の周りに血管や軟部組織が新生することを治療の目標にしている点では共通していると考える。
以上のことより、慢性骨髄炎の患者に対しては、正しい診断と原因菌の同定を行い、有効な抗菌薬治療で骨壊死を防止し、血管の新生を促すとともに、骨壊死を除去するために外科的介入を行いながら注意深い経過観察を行うことが重要であると考える。
【参考文献】
(1)ハリソン内科学 第4版 (2)Up to date: Overview of osteomyelitis in adults
(3)Mandell, Douglas, and Bennett's Principles and Practice of Infectious Diseases-Expert Consult Premium ed. 7th edition
(4)Diagnosis and Management of Osteomyelitis JOHN HATZENBUEHLER, MD, and THOMAS J. PULLING, MD, Maine Medical Center, Portland, Maine Am Fam Physician. 2011 Nov 1;84(9):1027-1033.
(5) The Accuracy of Diagnostic Imaging for the Assessment of Chronic Osteomyelitis: A Systematic Review and Meta-Analysis
M.F. Termaat, MD1; P.G.H.M. Raijmakers, MD, PhD1; H.J. Scholten, MD1; F.C. Bakker, MD, PhD1; P. Patka, MD, PhD1; H.J.T.M. Haarman, MD, PhD1 J Bone Joint Surg Am, 2005 Nov 01
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