注意! これは神戸大学病院医学部5年生が提出した感染症内科臨床実習時の課題レポートです。内容は教員が吟味し、医学生レベルで合格の域に達した段階 で、本人に許可を得て署名を外してブログに掲載しています。内容の妥当性については教員が責任を有していますが、学生の私見やロジックについてはできるだ け寛容でありたいとの思いから、(我々には若干異論があったとしても)あえて彼らの見解を尊重した部分もあります。あくまでもレポートという目的のために 作ったものですから、臨床現場への「そのまま」の応用は厳に慎んでください。また、本ブログをお読みの方が患者・患者関係者の場合は、本内容の利用の際に は必ず主治医に相談してください。ご不明な点がありましたらブログ管理人までお問い合わせください。kiwataアットmed.kobe-u.ac.jp まで
ノカルジアに対してST合剤が効かない・使えない症例の治療薬選択について
はじめに
ノカルジアに対する最も使用頻度の高いレジメンはスルファメソキサゾール-トリメトプリム合剤(以下ST合剤)をそれぞれ800/160mgで1日3回投与することとなっている。しかしながら、ST合剤が効かない場合、使えない場合がある。そうした症例には、代わりにどの治療薬を選択すべきかを考える。
ST合剤を使用できない理由
サルファ剤に対する感受性が悪い菌種、例としてはN.Otitidiscaviarumなどには使用できない。そのほかの理由としては、患者にサルファ剤のアレルギーがある、もしくは副作用が出たためST合剤を使えないことが考えられる。10%の患者に嘔気・嘔吐などの胃腸障害、発疹・蕁麻疹などの皮膚障害がみられる。また、1-10%にSteven-Johnson症候群やTENのような重篤な副作用が出現する。他にも、頻度は少ないが、無菌性髄膜炎、骨髄抑制なども見逃せない副作用である。エイズを発症した患者では、副作用の出現頻度が高く55%にみられる。また、葉酸欠乏の患者や妊婦への使用は避けるべきである。ST合剤には弱いもののジヒドロ葉酸レクターゼを阻害する作用があり、葉酸代謝が阻害されるからである。
治療薬
前述の理由で治療が奏功しない・使えない場合は、他の抗菌薬を考慮しなくてはならない。
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治療薬は、in vitroでの奏功率や、人間のノカルジアに対する代替治療に関する報告は少ないために動物モデルにおける治療効果に基づいて選択する必要がある。これまでに報告された抗菌薬の菌種別感受性を以下に示す。
|
N.asteroides |
N.farcinica |
N.nova |
N.brasiliensis |
N.transvalensis |
N.Otitidiscaviarum |
スルファメソキサゾール |
96-99 |
89-100 |
89-97 |
99-100 |
90 |
V |
ST合剤 |
100 |
100 |
NR |
100 |
88 |
V |
アンピシリン |
40-93 |
0-5 |
100 |
14 |
10 |
NR |
アモキシシリン/クラブラン酸 |
53-67 |
47-71 |
3-6 |
65-97 |
30 |
R |
セフトリアキソン |
94-100 |
0-73 |
100 |
88-100 |
50 |
NR |
イミペネム |
77-98 |
64-100 |
100 |
20-30 |
90 |
R |
アミカシン |
100 |
100 |
100 |
100 |
82 |
S |
ドキシサイクリン |
48-88 |
0-14 |
19-94 |
NR |
NR |
NR |
ミノサイクリン |
78-94 |
12-96 |
89-100 |
75-90 |
54 |
S |
シプロフロキサシン |
38-98 |
68-100 |
0 |
12-30 |
60 |
R |
モキシフロキサシン |
50 |
NR |
NR |
NR |
NR |
NR |
エリスロマイシン |
23-93 |
0-3 |
100 |
40 |
50 |
NR |
クラリスロマイシン |
42 |
5 |
NR |
NR |
NR |
NR |
リネゾリド |
100 |
100 |
100 |
100 |
100 |
100 |
R=抵抗性あり、V=多様な感受性を示す、S=感受性を示す、NR=報告なし |
これまでに、ノカルジア全般の治療法として最も臨床研究が進んでいるのが、アミカシンとイミペネムの併用で、in vitroや動物モデルで最も感受性がある。投与量はアミカシンを10mg/kg/day、イミペネムを500mg/6hである。また、イミペネム単剤での治療を行った後ろ向き研究もあり、上表の通りN.nova、N.transvalensisには効果的である。一方、アミカシンはN.transvalensisには抵抗性がある。アミカシンを使用する症例で、腎機能低下があるもしくは高齢の症例で、長期間投与する場合は血中濃度をモニタリングすべきである。
リネゾリドはin vitroですべての菌種に対して有効、かつ、いくつかの臨床報告がなされており、CNS感染でも効果があるとされる。600mgを1日2回投与する。しかし、長期投与で骨髄抑制などの副作用がおこりやすいため、末梢血球数のモニタリングが週単位で必要である。
最近では新しいフルオロキノロン系であるモキシフロキサシン、ガチフロキサシン(投与量はそれぞれ経口で400mg/day)がN.farcinicaを含むいくつかの菌種に感受性を示すとされる。これらは、特にサルファ剤に耐性のある患者で効果的だが、再燃も報告されている。
ミノサイクリンを100-200mgで1日2回経口投与、またはアモキシシリン/クラブラン酸の1日2回それぞれ875/125mg経口投与も有効であると考えられている。ノカルジアの治療は、ノカルジアの細胞増殖が遅いことから、再燃を防ぐためにも4-6ヶ月はかかる。そのため、経口抗菌薬を選択することは患者のQOLの向上につながる。
結論
臨床報告の数、in vitro の結果からすると、ST合剤の効かない・使えないノカルジアに対しては、アミカシンとイミペネムの併用、もしくは単剤投与、またはリネゾリドの投与がまず考えられる。これと、検体の薬剤感受性をあわせて判断する必要がある。また、モキシフロキサシンやガチフロキサシン、ミノサイクリン、アモキシシリン/クラブラン酸の使用も、CNS感染が起こった症例や免疫抑制のある症例など、治療経過が長くなる際には特に検討すべきである。
考察
今回、ST合剤が効かない・使えない場合の代替治療薬として、経口抗菌薬が使われた報告がまだまだ少ないとわかった。ノカルジアの治療は、最低でも半年、長い場合は1年以上かかる。そのため、経口抗菌薬を使った臨床研究が増え、選択方法や適切な使用方法がわかるようになれば、通院での治療が可能になり、患者のQOLが向上する。また、治療薬の選択肢が増えること、通院加療により治療期間も余裕をもって確保することで、ノカルジアの再燃を減らすことができるのではないかと考える。
参考文献
Harisson’s Principle’s of Internal Medicine 18th Edition / Goldman’s Cecil Medicine 24th Edition
Mandell Douglas and Bennett's Principles and Practice of Infectious Diseases 7th Edition / Up to Date
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