Loa Loaについて
ロア糸状虫症は中央、西アフリカの沿岸部と熱帯雨林における地方流行病である。具体的には北部アンゴラ、南東部ベニン、カメルーン、中央アフリカ共和国、チャド、コンゴ共和国、赤道ギニア、ガボン、ナイジェリア、スーダン、コンゴ民主共和国が流行地域である。300~1300万人が感染していると推測されている。
媒介動物はメスのメクラアブで、このアブは熱帯雨林で繁殖し、沼地に産卵する。感染したアブの吸血中、第3ステージのフィラリア幼虫が人間の皮膚上に移り、咬傷から人体に侵入する。幼虫は6から12カ月かけて30~70×0.3mmの大きさの成虫に成長し、皮下組織内を移動する。初感染の6~12か月後、成虫は数千の幼虫ミクロフィラリアを産生し、血流中に放出する。ミクロフィラリアは髄液、尿、痰から取り出される。また、メクラアブが吸血する習慣のある昼間は末梢血液内に数多くみられ、そうでないときは肺で発見される。感染者の人間の血液を再びメクラアブが摂取すると、血中に含まれるミクロフィラリアも摂取する。メクラアブに摂取されたミクロフィラリアは鞘を失い、アブの中腸から血体腔を通して胸郭の筋肉へ移動する。そこでミクロフィラリアは第1ステージの幼虫となり、その後第3ステージの感染性のある幼虫となる。第3ステージの幼虫はアブの吻へ移動し、このアブが他の人間を吸血する際に感染が起こりうる状態となる。
ほとんどの患者に自覚症状はない。臨床的な所見としてカラバル浮腫という限局性血管性浮腫がある。これは成虫が皮下組織内を移動することに対する反応であると考えられる。顔面や四肢に痒みや痛みの先行する10から20㎝の腫脹が一過性に現れ、数日から数週間持続する。また、成虫は眼球結膜に移動し眼虫となる。合併症には血尿、蛋白尿の腎合併症や脳炎がある。
上記のように、流行地域に長期滞在の旅行歴などがある人で、蕁麻疹、眼虫、好中球増多がみられるとロア糸状虫症を疑って診断を進めていく。診断は、昼間に採取した血液中のミクロフィラリアを顕微鏡やPCR法で同定する、または眼球結膜内の成虫の存在を確認することで確定する。他の鑑別としては血管性浮腫の原因としてC1抑制因子欠損など、寄生虫感染症としてオンコセルカ症やマンソネラ症、好酸球増多を起こすものとしてアレルギー疾患などが挙げられる。
ロア糸状虫症の治療にはジエチルカルバマジンを用いる。これはミクロフィラリアに対しても成虫に対しても効果を持つ。治療の負担と激烈さにより、血中のミクロフィラリア数が多いほど副作用も大きくなるため、初回治療前の血中ミクロフィラリアの定量化は必要不可欠である。この定量化も血中ミクロフィラリア数のピークがある午前10時から午後2時の間に行うべきである。血中ミクロフィラリア数が小さい患者に重大な副作用が起こることは一般的ではない。抗ヒスタミン薬や副腎皮質ステロイドをカラバル浮腫や蕁麻疹を含む治療後の反応に対して用いるが、脳症のような重大な副作用の予防は行わない。血中ミクロフィラリア数が大きい患者に対しては、治療を行うことのリスクと利益を考慮する必要がある。一般に、末梢好酸球数の増加がみられ、かつ、もしくはオンコセルカ症やリンパ系フィラリア症を随伴している患者に対しては、治療を見合わせるべきである。
ジエチルカルバマジン治療を行う前に血中ミクロフィラリア数を減らすことを試みるが、これには血液成分分離法を用いる。アルベンダゾールによる治療は経口投与で生体内利用率が高く、コントロール試験でミクロフィラリアを有意に減少させることが示されている。イベルメクチンはミクロフィラリアに対する活性を持ち、ミクロフィラリア数の多い患者の有害事象を沈降させるが、ジエチルカルバマジンと異なり成虫に対する効果はなく、ロア糸状虫症に対して治癒的でない。
眼球や皮膚から成虫を摘除する手術は診断目的で行われうる。一般的に感染の治療のための実用的な方法ではない。
ロア糸状虫症に対するワクチンはない。流行地域に長期滞在する計画がある場合は予防的化学療法として300㎎ジエチルカルバマジンを週ごとに接種するべきである。
〈参考文献〉
UpToDate Loasis(Loa loa infection)
THE YELLOW BOOK 2012
MANDEL BENNETT DOLIN INFECTIOUS DISEASES
コメント
コメントフィードを購読すればディスカッションを追いかけることができます。