感染症BSLレポート
淡水魚の生食でかかる寄生虫疾患について
■ 淡水魚ごとにかかる寄生虫疾患について検討する。
<ドジョウ、ライギョ>
原因寄生虫として、顎口虫、棘口吸虫、Clinostomum complanatumが挙げられる。
顎口虫は、生食後、腹痛で発症する。虫体は消化管壁を貫き肝臓へ移行し、ついで皮膚、皮下に至る。皮膚で疼痛と掻痒を伴う限局性の皮膚爬行症をきたすタイプと、皮下組織に入り遊走性限局性皮膚腫脹をきたすタイプがある。典型的には1~2週間の発作を移動性に繰り返し、経過に従い症状は軽くなり消退する。ただし、皮膚からほかの臓器に移行することもあり、好酸球性髄膜炎を起こすと抑うつ、微熱、頭痛、神経症状等が出現する。棘口吸虫は、心窩部疝痛発作、圧痛、下痢、悪心、嘔吐、発熱等の症状を示す。Clinostomum complanatumは、ヒトの咽頭部や喉頭部の粘膜に吸着寄生する。症状としてはその部位の異物感、疼痛、咳嗽、嗄声、時に血痰、発熱をきたす。
<サケ、マス>
原因寄生虫として、広節裂頭条虫、アニサキス、サルミンコラ住血吸虫、顎口虫が挙げられる。
広節裂頭条虫は、日本のサクラマスから感染する日本海裂頭条虫も含み、症状としては、下痢、腹痛が最も多い。虫体の排出以外に症状がないこともある。アニサキスは胃壁や腸壁に穿入して腹痛を起こす。体内ではアニサキスは発育せず死亡するが、治療は直ちに内視鏡で虫体を確認して摘出する。サルミンコラ住血吸虫では、腹痛、下痢をおこす。顎口虫はサケ、マスの生食でも感染を起こす。顎口虫を除いて、これらの寄生虫は似た症状を示す。そこで診断には糞便中の虫卵、虫体を調べる。また、広節裂頭条虫症ではビタミンB12欠乏や巨赤芽球性貧血を起こすこともあり、手がかりとなる。
<コイ、フナ、アユ>
原因寄生虫として、肝吸虫、横川吸虫、Clinostomum complanatum、顎口虫が挙げられる。
肝吸虫は、モツゴなど小型の雑魚に感染率が高い。日本、韓国、台湾、ベトナムなどに分布し、感染すると虫体は胆管枝へ塞栓するため胆汁がうっ滞し、胆管壁ならびにその周囲の慢性炎症をおこす。そのため慢性の経過を経て肝硬変となる。初めは食欲不振、全身倦怠、下痢、腹部膨満、肝腫大、胆石を起こし、次第に腹水、浮腫、黄疸、貧血をきたす。また、タイ肝吸虫は、タイ、ラオス、マレーシアで見られ、Koiplaというタイ料理などのコイの生食で感染を起こす。横川吸虫は、日本、韓国、台湾、東南アジア、シベリアなどに分布する。少数寄生でも小腸絨毛間に深く寄生すると慢性炎症を起こす。多数寄生で下痢や腹痛を起こす。Clinostomum complanatumや顎口虫はコイ、フナ、アユの生食でも感染を起こす。
■ 追記
そのほか、フィリピン毛細虫は淡水魚の生食により感染する。生活史は詳細不明であるが、日本へは渡り鳥により伝播したと考えられる。症状として腹痛、下痢、消化不良があり、放置すると死亡することがある。また、ランブル鞭毛虫症の発症例として、糞便で汚染されたサケ缶が感染源となった例が1例ある。クリプトスポンジウムは水を介して主に免疫不全者に感染し、重症水様下痢をきたす。ただし虫体はヒト、淡水魚含めた幅広い宿主をもつ。そのため、まだ報告例はないが、淡水魚からヒトへの感染も考えられる。
■ 参考文献
図説人体寄生虫学第5版/著 吉田幸雄/南山堂/1996
感染症学改訂第四版/著 谷田憲俊/診断と治療社/2009
FISH MEDICINE/Michael K. Stoskopf, D.V.M., Ph.D./W.B. Saunders Company/1993
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