注意! これは神戸大学病院医学部5年生が提出した感染症内科臨床実習時の課題レポートです。内容は教員が吟味し、医学生レベルで合格の域に達した段階 で、本人に許可を得て署名を外してブログに掲載しています。内容の妥当性については教員が責任を有していますが、学生の私見やロジックについてはできるだ け寛容でありたいとの思いから、(我々には若干異論があったとしても)あえて彼らの見解を尊重した部分もあります。あくまでもレポートという目的のために 作ったものですから、臨床現場への「そのまま」の応用は厳に慎んでください。また、本ブログをお読みの方が患者・患者関係者の場合は、本内容の利用の際に は必ず主治医に相談してください。ご不明な点がありましたらブログ管理人までお問い合わせください。kiwataアットmed.kobe-u.ac.jp まで
認知症に見えて認知症ではない疾患
認知障害をきたす疾患は多岐にわたり、早期に発見して治療を行えば改善または治癒が可能である疾患も存在するため、このような疾患を見逃さないことが重要である。病歴は認知機能低下の発症、罹病期間、進行様式に焦点をあてて聴取し、急性または亜急性に発症している場合は基礎疾患による二次的な認知症を考慮する。さらに認知障害以外に症状はないか、職業歴や既往歴も診断を進めていく上で重要である。検査に関してAmerican Academy of Neurologyでは、甲状腺機能検査やビタミンB12値測定、画像検査(CTまたはMRI)はルーチン検査として推奨している。治療可能な認知症として以下のものが挙げられる。
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せん妄:時間または日単位で変動する認知機能の低下と定義されている。せん妄の特徴は注意力の欠如であるが、注意力を評
価する上では数字順唱試験の感度が高い。発症の成り立ち(せん妄では数時間~数日)、意識レベルの変動が認知症
との重要な違いである。
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脳の器質的な疾患
・正常圧水頭症:一部の患者では髄膜炎、くも膜下出血、頭部外傷の既往がある。臨床的3徴は認知症(遂行機能障害が目立つ)、歩行障害(失調性または失行性)、尿失禁(初期は尿意切迫)である。MRIでは脳室の拡大が脳溝の拡大に比して大きく、脳脊髄液の閉塞を示す所見がないことが特徴である。
・慢性硬膜下血腫:患者の20~30%は頭部外傷の記憶がない。症状としては頭痛、思考遅延、人格変化、局所神経症状などが挙げられる。CT、MRIで血腫が見られれば診断できる。血腫が判断しづらいときは年相応の脳室、あるいは大脳皮質溝の大きさなのかどうか考える。
・脳腫瘍:脳腫瘍は通常、痴呆症よりも局所神経症状や痙攣発作を引き起こす。腫瘍が前頭葉や側頭葉に生じると、記憶障害や行
動異常が初期から見られる。潜伏癌(特に小細胞肺がん)と関連した腫瘍随伴症候群でも、錯乱、焦燥、痙攣発作、記
憶障害、感情障害、明らかな認知症をきたすことがある。
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栄養障害
・ビタミンB12欠乏:胃切除後、または悪性貧血の患者で見られる。ビタミンB12欠乏は巨赤芽球性貧血や脊髄後索障害(位置覚や振動覚の消失)、皮質脊髄路障害(深部腱反射亢進やBabinski反射)、末梢神経障害を引き起こす。有髄繊維の障害から認知症を生じる。
・Wernicke脳症(ビタミンB1欠乏):アルコール依存症・低栄養が危険因子である。ビタミンB1を補給しないブドウ糖を含む栄養補給をすることにより、医原性に引き起こされることもある。3徴は眼筋麻痺、失調、錯乱(約1/3でみられる)であるが、水平性眼振と外転神経麻痺は初発症状として重要。
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内分泌障害
・甲状腺機能異常:甲状腺機能亢進症・低下症いずれでも起こしうる。特徴的な身体所見(甲状腺機能亢進症での眼球突出、低下症での乾燥した皮膚など)が出現していないかに注意し、血中TSH、T3、T4の測定する。
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中毒:アルミニウム、鉛、水銀などによる中毒は認知症をきたす。職場や家庭での暴露について問診が診断の鍵となる。
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精神障害
・うつ病:不眠、元気のなさ、食欲低下、消化管の不調などの自律神経症状が出現する。発症は急激であることが多い。
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中枢神経感染症
・神経梅毒:神経梅毒はTreponema pallidum感染後どの時期にも生じうる。HIV患者は梅毒の合併も多いので、HIV患者はすべ
て髄液検査をするべきである。髄液検査が診断の鍵となるが、特徴的な髄液所見は、細胞増加、蛋白上昇、VDRL陽性
(髄液VDRL陽性の感度30%)である。
・HIV:HIVそのものによる脳症、または二次的な日和見感染、腫瘍により生じる。日和見疾患で頻度の高いものはトキソプラズマ症、クリプトコッカス症、進行性多層性白質脳症、原発性中枢神経系リンパ腫が多い。
・慢性髄膜炎:感染性と非感染性(腫瘍、非感染性炎症性疾患、薬剤など)によるものがある。認知症や行動異常を示す患者で、
頭痛、髄膜症、脳神経障害、神経根症を認めた場合は慢性髄膜炎を疑うべきである。
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薬剤性:高齢者では特に鎮静薬、抗不安薬、鎮痛薬は錯乱、記名力低下をきたしやすい。
参考文献
1)ハリソン内科学日本語版第4版
2)ManjariTripathi and DeeptiVibha: “Reversible dementias” Indian J Psychiatry. 2009 January; 51(Suppl1): S52–S55.
3)Panagiotis Ioannidis, DimitrisKaracostas: “How Reversible are ‘Reversible Dementias’?” European Neurological Review, 2011;6(4):230-233
4)Up To Date:Approach to the patient with chronic meningitis
5)Up To Date:Normal pressure hydrocephalus
6)Up To Date:Neurosyphilis
7)What’s Causing Your Memory Loss?It's Not Necessarily Alzheimer’s
http://www.helpguide.org/harvard/alzheimers_dementia.htm
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