注意! これは神戸大学病院医学部5年生が提出した感染症内科臨床実習時の課題レポートです。内容は教員が吟味し、医学生レベルで合格の域に達した段階 で、本人に許可を得て署名を外してブログに掲載しています。内容の妥当性については教員が責任を有していますが、学生の私見やロジックについてはできるだ け寛容でありたいとの思いから、(我々には若干異論があったとしても)あえて彼らの見解を尊重した部分もあります。あくまでもレポートという目的のために 作ったものですから、臨床現場への「そのまま」の応用は厳に慎んでください。また、本ブログをお読みの方が患者・患者関係者の場合は、本内容の利用の際に は必ず主治医に相談してください。ご不明な点がありましたらブログ管理人までお問い合わせください。kiwataアットmed.kobe-u.ac.jp まで
梅毒の経口薬治療(特にプロベネシドを使用する理由について)
【梅毒の経口薬治療】
梅毒は感染成立からの時間と臨床像により、以下のように分類されている。
第1期梅毒:感染後約3週間の潜伏期を経て、主に単発性で無痛性の陰部潰瘍(硬性下疳)を生じる時期
第2期梅毒:硬性下疳の出現後、4~10週間を経て、多発性の水疱を伴う有痛性の潰瘍病変などの全身皮膚症状を主体にさまざまな症状を呈する時期
潜伏梅毒 :血清梅毒反応が陽性だが、梅毒の症状を認めない時期
晩期梅毒 :感染後数年~数十年経過し、神経梅毒(第1期、第2期でも起こりうるので注意)、心血管梅毒、ガマ腫などを認める時期
梅毒には、50年以上に渡る経験的治療によりペニシリンGが有効であると認められている。CDCガイドライン2010では(ここではnon-HIVに対する治療についてのみ述べる)、第1期、第2期、潜伏梅毒、晩期梅毒に対してはベンザチンペニシリンの筋注、神経梅毒に対しては水溶性ペニシリンの点滴が推奨されている。経口薬としては、ペニシリンアレルギーのある患者に対して代替薬としてドキシサイクリンを挙げているが、効果に関してはまだ十分な研究がなされていない。また、日本ではベンザチンペニシリンが発売されておらず、現状では世界でのスタンダードな治療を行うことができない。それに対する代替案として、ドキシサイクリン以外に臨床現場でアモキシシリンにプロベネシドを併用した経口薬治療を行うことがある。
【プロベネシドの作用】
プロベネシドは、尿酸排泄促進薬であるが、近位尿細管に働いてペニシリンの腎排泄量を減少させ、血中濃度を維持する作用が報告されている。CDC ガイドラインでは、神経梅毒に対する代替治療としてプロカインペニシリン筋注にプロベネシド経口内服の併用が挙げられている。これはプロカインペニシリン筋注のみでは神経梅毒の治療に必要なCSF中のペニシリン濃度を十分な時間保つことが出来ないとされている為である。
また、1985年のRobertらの論文で、17例の潜伏梅毒患者にアモキシシリン1日2g x3回+プロベネシド1日500mg x2回の経口内服を行ったところ、ウサギで推定されたペニシリンのT.pallidumに対するMICを、CSF濃度、血中濃度ともに上回ったことが確認され、このことから神経梅毒に対してこの2剤併用の経口治療が有効である可能性が示された。
【プロベネシドを用いた治療の問題点】
アモキシシリンに併用することで、梅毒治療に有効なペニシリン血中濃度の維持が見込まれることから、時に梅毒の経口薬治療としてプロベネシドを用いることがある。しかし、梅毒治療薬に関して、ペニシリンG以外の薬剤では十分な研究がされておらず、また経口薬治療には服薬コンプライアンスの程度により治療失敗となる恐れもあることから、このような治療を行う場合、治療後のフォローアップをしっかり行うことが重要である。
〔参考文献〕・Mandel, Douglas, and Bennett’s Principals and Practice of Infectious Disease, pp3048-3051, Churchill Livingstone, 2010
・青木眞,『レジデントのための感染症診療マニュアル 第2版』p947-p955,医学書院,2008
・Bertram G. Katzung, 『カッツング薬理学 原書第10版』pp645,793-800,丸善出版,2009
・Robert M. et al, Oral amoxicillin, an alternative treatment for neurosyphilis, Genitourin med 1985;61:359-62
・Centers for Disease Control and Prevention, Sexually Transmitted Diseases Treatment Guidelines 2010
http://www.cdc.gov/std/treatment/2010/STD-Treatment-2010-RR5912.pdf
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