注意! これは神戸大学病院医学部5年生が提出した感染症内科臨床実習時の課題レポートです。内容は教員が吟味し、医学生レベルで合格の域に達した段階 で、本人に許可を得て署名を外してブログに掲載しています。内容の妥当性については教員が責任を有していますが、学生の私見やロジックについてはできるだ け寛容でありたいとの思いから、(我々には若干異論があったとしても)あえて彼らの見解を尊重した部分もあります。あくまでもレポートという目的のために 作ったものですから、臨床現場への「そのまま」の応用は厳に慎んでください。また、本ブログをお読みの方が患者・患者関係者の場合は、本内容の利用の際に は必ず主治医に相談してください。ご不明な点がありましたらブログ管理人までお問い合わせください。kiwataアットmed.kobe-u.ac.jp まで
改定長谷川式簡易知能評価スケールの有用性
<概要>
1974年に精神科医の長谷川和夫が発表したHDS(Hasegawa’s Dementia Scale)は、当時認知症の診断を数式化したものがなかったため、広く日本で普及した。しかし不適切な設問もあり、より国際的に使用できるように1994年にHDS-Rが発表された。一方、現在国際的に使用されているMMSE(Mini-Mental State Examination)は、1975年にFolsteinらが認知症のスクリーニングを簡便に行うために開発された。主に日本でのみ使用されているHDS-Rが認知症のスクリーニングとして有用なのか、なぜ国際的に用いられないのかを以下で検討する。
<評価・有用性>
まず認知症のスクリーニング検査には、短い時間に実施でき、採点に手間や特別な熟練を要することがなく、またその結果から認知症の有無を比較的高い精度で鑑別できるという条件が求められる。この点ではHDS-RもMMSEも満たしている。
認知症スクリーニング検査の実施にあたっては一般に次のような点に注意が必要である。
①被験者の協力が必要不可欠。
②視力や聴力に問題のある方、失語を有する場合、被験者の意欲や集中力が十分でないときやうつ状態では検査成績の低下を免れない。
③教育年数や年齢、性別など被験者の背景因子による影響を受けやすい。
④高齢者の場合、検査を実施している場所が訪問先の施設か自宅かによっても見当識の得点差が生じる可能性が高い。
これら4つのことはHDS-R、MMSE両方で言えることであり、以下にそれぞれの利点・欠点を示す。
|
利点 |
欠点 |
HDS-R |
・日本人の場合、感度90%、特異度82%(カットオフ値:20/21点) ・運動機能に障害がある人でも行える ・被験者の学歴による点数の差が少ない |
・主に日本でのみ用いられており、他国との比較が困難 ・記憶に重点をおいた言語性の課題が多く、構成能力など異なる認知機能評価が不足 |
MMSE |
・感度83%、特異度93%(カットオフ値23/24点) ・国際的に最も広く用いられており、多くのエビデンスが蓄積されている ・記憶能力のみならず、構成能力を評価可能 |
・被験者の学歴によるスコアの差が大きい ・聴力に負担のかかる項目が多いため、聴力低下が特に大きな成績低下をもたらす原因となる |
認知症の診断基準として国際的に用いられるものはDSM-Ⅳであるが、この基準の中にHDS-RもMMSEも含まれていない。しかし両者は認知症のスクリーニングを簡便に行えるため、広く普及している。上述のように、両者ともそれぞれ利点・欠点があるものの、感度・特異度に大きな差はない。したがって両者とも診断基準に含まれていないことも考慮すると、認知症のスクリーニング検査としてはどちらも同程度有用である。
また、1974年にHDSが発表された当初は、日本語で発表されたこと、設問が日本の文化に沿ったものであったことなどから国際的に使用されるに至らなかった。したがってその1年後に発表されたMMSEが広く世界に受け入れられたと考える。
以上の2点より現在日本ではHDS-Rが、世界ではMMSEが普及していると思われる。スクリーニング検査としては両方同程度有用であるため、どちらを用いてもかまわないだろう。ただし、今後ますます医療の国際化が進むことを考えると、数多くのエビデンスが蓄積されており世界的に用いられているMMSEに移行していくべきと私自身は考える。
<参考文献>
-
uptodate Evaluation of cognitive impairment and dementia
-
Imai Y, Hasegawa K: The Revised Hasegawa’s Dementia Scale (HDS-R) –Evaluation of its usefulness as a screening test for dementia. J Hong Kong Coll Psychiatr 1994; 4:20-24.
-
Jeong JW, Kim KW, Lee DY, Lee SB, Park JH, Choi EA, Choe JY, Do YJ, Ryang JS, Roh HA, Park YS, Choi Y, Woo JI : A normative study of the Revised Hasegawa Dementia Scale: comparison of demographic influences between the Revised Hasegawa Dementia Scale and the Mini-Mental Status Examination. 2007;24(4):288-93. Epub 2007 Aug 24
-
認知症 臨床最前線 医歯薬出版株式会社
コメント
コメントフィードを購読すればディスカッションを追いかけることができます。