飲食物の偽装問題が話題になっている。実際と異なる表示を行っていた業者はけしからん、という意見はごもっともであり、その点に異論はない。
しかし、そこで止まってよいのか?とは思う。問題は、なぜこんなに普遍的に偽装がまかり通ってしまったのか。そして、それがなぜ今日に至るまで露呈しなかったのか。そちらの疑問の方が僕には興味がある。
後者の質問に対する答えは、割と簡単である。消費者が愚かで味覚音痴だったから、とは思わない。もちろん、味の判らない人だっているだろう。でも、「味の判らない人」だけを選択的に騙すのではなく、そうでない人もまとめて騙そうとしたのだから(そして騙せていたのだから)、この仮説は成り立たない。高級な百貨店など、そういう「ブランド」にお金を出す人たちを対象にしているのだから、なおさらだ。
むしろ、「偽装してもまずくなかったから」と考えた方が、リーズナブルな仮説だと僕は思う。要は、京都産の野菜であっても滋賀県産の野菜であってもそんなに味は変わらない(滋賀のひと、ごめん)。神戸牛も島根牛もどちらもとても美味しい(to me)。目隠しして食べたら、ほとんどその差は気がつかない。
では、なぜ業者はリスクを冒してまで偽装をするのか、である。
答えは簡単だ。ブランドには対価が加算され、値上げしたかさ上げ分があるにもかかわらず、人は高価な品物を買いたがるからである。
こんなところだったのではないだろうか。○○産の食べ物は高くても売れる。△産の食べ物は味はまったく同じなので、売れない。○産の食べ物があるとき、入手できなくなる。仕方が無いから、出来心で△を出してしまう。ところが、誰も気づかず、美味しく楽しんではる。なんだ、こんな簡単に儲けが出せるのか、、、、、
一部の悪徳業者が例外的に偽装をやっていた、というのなら話は判る。しかし、これだけたくさんの業者が普遍的に偽装をしていたのだから、そこに「悪意」だけではなく、「構造」を見いだす必要がある。
問題は、プライスである。価格の適正さは売り手と買い手の納得にある。味が美味しくて、偽装に騙されてハッピーな人たちは、いったいどういう被害にあったのだろう。その被害の真相は、少し考えてみる必要は、ある。もちろん、被害はあるのだけれど、それは世間一般で言われているような被害とは違うと、僕は思う。
ところで、最近電子書籍で出回っているので、「あの」グルメ漫画を読んでいる。あれ、一時嫌いになったこともあったけど、今読みなおすととてもまっとうな漫画ですね。すごくよいと思います。
が、このグルメ漫画の負の影響はわりと大きかったとも思う。添加物はだめ、化学調味料はだめ、農薬はだめ、養殖はだめ、添加物はだめ、アメリカ産はだめ、純米酒じゃないとだめ、筍は京都に限る、江戸前寿司は○○に限る、、、とかなりクリアカットに「美食の条件」を指南したのである。
あれがこの漫画の原作者が自分の舌で判断した判断なのだと僕は思う。権威に寄りかからず、自分の舌でちゃんと判断しなさいよ、というバブル・グルメブームへのアンチテーゼでもあった。ところが、その漫画そのものが「権威」になってしまい、自分の舌で判断できない人たちが、添加物はだめ、農薬はだめ、、、となったのである。
確かに、戦後のアルコール添加そのものの酒はまずい。しかし、アルコール添加されていても、純米酒よりも美味しい酒もとても多い。しかし、「純米酒」と書いていないと客は納得しない。業者は味よりも「レッテル」を優先させないとやっていけない。
ところで、ぼくらは実体のないブランドやイメージに金を出す。高いギャラを払って美人の女優に化粧品のCMに出演させる。そのイメージで化粧品は売れるから、イメージはペイするのだ。でも、心の底からその化粧品でその女優みたいに美人になれると信じ込んでいる人はいないだろう(たぶん)。嘘だと判っていながら、そのイメージに手を出してしまうのだ。あのネズミの中にはだれか人が入っているのは判っている。判っているけど、あの場ではそういうことは誰も口にはしない。嘘だと判っているのだけど、その嘘を信じ込むアクロバティックな心理を持たねば、あのランドは楽しめない、、ていうか、あれって千葉にあるから、偽装なんじゃないかな。
キャバクラやメイドカフェでは客は殿様扱いされるが(想像です)、「あれは金払ってるからおれに尽くしてくれるんだよな」なんてメイドに言っちゃうのは無粋である。「ほんっとにおれのこと好きなんだよな」なんて「品川心中」の金蔵みたいになっちゃうのは、馬鹿である。無粋と馬鹿の間、虚構と真実の間を、上手に泳ぎきって初めて人は楽しく人生やっていける。
というわけで、偽装問題は、「あいつが悪い」と前のめりになるより、少し一歩引いて考えた方が、たぶん妥当な対応だと思う。賢い消費者になるのは大切である。しかし、ちょっとわざと騙されるのは、さらに賢い態度なのである。
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