梅毒の診断
梅毒の原因であるTreponema pallidumは皮膚病変(下疳など)から直接検出を行い墨汁法、パーカーインク染色や暗視野顕微鏡で観察することが出来るが、現在のところin vitroにおけるT.pの分離培養が出来ず、また感染初期(1期、2期)以外は潜伏する疾患であるため、多くの場合は梅毒の診断において血清学的検査が重要である。診断は血清学的検査であるトレポネーマ検査と非トレポネーマ検査の2種類の検査によって行うが、実際にはこれらの検査はスクリーニングに行う場合と臨床的に疑われるときに行う場合がある。
スクリーニングの対象になるのはT.pの感染経路が性行為(皮膚や粘膜に生じた微細な傷から被感染者の体内に侵入し、感染する)と母子感染(T.pが胎盤を通じて母体から血行性に胎児に移行し、その感染率は70~100%と高い)であることからハイリスク群と妊婦に行う。頻度は少なくとも年に一回が望まれる。ハイリスク群とは男性の同性愛者、入院患者、多くのセックスパートナーを持つ人、他のSTDを持つ人、HIV感染者である。ただし、梅毒の感染後約2~5週間はSTS(非トレポネーマ検査)の結果が陰性となることがあり、陰性であっても日をあらためて(2~3週間後)再度検査を行うとよい。STSが陽性ではトレポネーマ検査であるTPHAを行うが、陽性であればSTS定量検査を行う。TPHAが陰性の場合は、さらに同じくトレポネーマ検査であるFTA-ABSを行い、この結果で判定する(ただし、TPHAは感染後約6週間、FTA-ABSは約3週間陽転化しない)。
トレポネーマ検査で陰性であれば初期の梅毒感染あるいは生物学的偽陽性(STS陽性の10~20%)と考えられる。
臨床症状から疑われる場合はトレポネーマ検査、非トレポネーマ検査を両方行う。梅毒における各段階での臨床所見と診断については具体的には以下の通りである。第1期梅毒では硬性下疳やリンパ節腫脹を呈することが多い。好発部位は男性では冠状溝、包皮内板、陰茎で、女性では陰唇、子宮膣部である。ただし、梅毒の感染初期では血清学的検査が陰性になることがある。皮膚病変があれば暗視野顕微鏡観察を行って菌体を確認する(感度80%)。第2期梅毒ではリンパ節で増殖したT.pは血行性に全身に散布され、発熱、倦怠感、頭痛、関節痛、全身リンパ節腫脹に加え、皮膚や粘膜に多彩な症状、所見を呈する。第2期の皮膚所見の中でも乾癬様皮疹やバラ疹は特異的であり、また血清学的検査が極めて有効であるため臨床症状から疑われる場合や患者のリスクが高い場合は血清学的検査を積極的に行うことで診断がつきやすい。潜伏梅毒(無症候梅毒)では、この時期は無償症状、無所見であるので、スクリーニングで発見されることが多い。ただし、25%で2期の症状が再燃する。第3期梅毒では真皮から深部の筋、骨に及び、結節性梅毒疹や皮下組織にゴム腫が出現し、ともに潰瘍化し、瘢痕治癒して変形を残す。現在では抗生物質による治癒が進み、ほとんどみられないが、この時期は非トレポネーマ検査の感度が低いため検査が陰性の場合、治癒したのか偽陰性なのかが分かりにくい。第4期梅毒変性梅毒では大動脈炎、大動脈瘤、神経麻痺などの症状が見られる。HIV感染者では進行が早く早期から神経梅毒を発症することがある。神経梅毒は、原因不明の神経学的異常では常に神経梅毒を鑑別にあげる必要があり、髄液中の細胞数増加や蛋白増加、髄液VDRL結果、神経症状により総合的に診断される。HIV感染に併発した梅毒の場合、梅毒血清反応は生物学的偽陽性や偽陰性になることがあり、また髄液細胞数増加と蛋白質濃度増加が起こるため、HIV感染者の神経梅毒の診断は評価が難しい。治療に抵抗性であったり、進行が異常に速く早期から神経梅毒を発症することがある。また、梅毒患者はHIVに感染しやすいのと同時にHIV患者には梅毒が多く認められるので、すべての梅毒患者にHIV抗体の検査を行うことが望ましい。確定診断は臨床症状と血清反応、T.pの検出を組み合わせて総合的に診断する。
|
|
非トレポネーマ検査 |
|
|
|
+ |
− |
トレポネーマ検査 |
+ |
再感染を含めた梅毒感染例、あるいは梅毒治癒後間もないもの。非トレポネーマを用いた定量検査で増加していれば活動性感染 |
梅毒治療後超期間経過したものか、梅毒感染後長期間経過したものであり感染性は無い。例外:ライム病 |
− |
初期の梅毒感染あるいは生物学的偽陽性(膠原病、感染症、ワクチン接種、妊婦、悪性腫瘍) |
ハイリスクの患者や治療歴のあるものを除けば梅毒の感染は存在しない。感染のごく初期。またはHIV感染の影響 |
それぞれの感度と特異度をいかに示す。ただし、FTA-ABS法、TPHA法はトレポネーマ検査。VDRL法、RPR法は非トレポネーマ検査である。
|
第1期(感度) |
第2期(感度) |
潜伏期(感度) |
第3期(感度) |
特異度 |
FTA-ABS法 |
84(70~100) |
100 |
100 |
96 |
97(94~100) |
TPHA法 |
76(69~90) |
100 |
97(97~100) |
94 |
99(98~100) |
VDRL法 |
78(74~87) |
100 |
95(88~100) |
71(37~94) |
98(96~99) |
RPR法 |
86(77~100) |
100 |
98(95~100) |
73 |
96(93~99) |
参考文献
感染症専門医テキスト 第Ⅰ部 解説編 社団法人
日本感染症学会性感染症 診断・治療 ガイドライン 2011
感度と特異度からひもとく感染症診療のDecision Making
up to date [Diagnostic testing for syphilis (last updated 4 26 2013)]
コメント
コメントフィードを購読すればディスカッションを追いかけることができます。