注意! これは神戸大学病院医学部5年生が提出した感染症内科臨床実習時の課題レポートです。内容は教員が吟味し、医学生レベルで合格の域に達した段階 で、本人に許可を得て署名を外してブログに掲載しています。内容の妥当性については教員が責任を有していますが、学生の私見やロジックについてはできるだ け寛容でありたいとの思いから、(我々には若干異論があったとしても)あえて彼らの見解を尊重した部分もあります。あくまでもレポートという目的のために 作ったものですから、臨床現場への「そのまま」の応用は厳に慎んでください。また、本ブログをお読みの方が患者・患者関係者の場合は、本内容の利用の際に は必ず主治医に相談してください。ご不明な点がありましたらブログ管理人までお問い合わせください。kiwataアットmed.kobe-u.ac.jp まで
リステリアと妊娠
Listeria monocytogenesは通性嫌気性、無芽胞性のグラム陽性桿菌で、高濃度の本菌で汚染された食品の摂取にて経口感染として起こる。リステリア菌は土壌や腐りかけの野菜に生息しており、冷蔵温度や幅広いpHにおいて生存・増殖可能であるため、動植物由来の加工・未加工食品から検出される。最も一般的なものは、加工/デリカテッセンの肉、ホットドッグ、ソフトチーズ、燻製海産物、パテなどである。食品由来病原菌に占める割合は1%未満で、リステリア感染のうち95%は散発的に見られる。日本での発症は100万人あたり年間0.65人である。
健常人は本菌への感受性が低いが、適応免疫の主体は細胞性免疫であるため、細胞性免疫が低下する妊娠や免疫不全状態の個体に重篤な感染を引き起こす。妊娠25-36週ごろの妊娠女性は本菌に対して特に感受性が高く、全患者の約1/3を占める。
一般的に、汚染食品の摂食後48時間以内に50-100%で胃腸炎を発症するが、妊娠中のリステリア症は通常、菌血症を呈し、発熱を伴う筋肉痛、関節痛、腹・背部痛、頭痛などのインフルエンザ様症状があり、急性または亜急性の臨床像をとる。潜伏期間は典型的には1-3週間である。妊娠以外に危険因子がなければ、中枢神経系が侵されることはまれである。早産、胎児死亡、新生児感染が一般的な合併症で、母体が菌血症になると胎盤を通して児が感染する可能性がある。感染母体からの児には70-90%の高率に感染がみられ、母体は無症状でも感染した胎児が致命的となることもあり、子宮内感染した胎児の総死亡率は50%に上る。抗菌薬にて治療を受けた生児出産例での死亡率はおよそ20%と低くなる。
診断は血液や脳脊髄液の培養により確定される。リステリア髄膜炎の診断に脳脊髄液培養にて陽性という結果が必要だとするものが多いが、脳幹脳炎のある患者の41%、脳膿瘍の患者では更に少ない割合でしか陽性とならない。髄液は細胞数が増加し、細胞数の25%-100%を占める多数のリンパ球が見られるが、多形核細胞が100%となることもある。820人の患者のうち、タンパク濃度はほぼすべての患者で上昇しており、グルコース濃度は39%の患者で減少していたとの報告がある。PCR検査は現時点では臨床診断に有用でないとされている。
妊婦に対する治療はアンピシリンが第一選択で、ペニシリンアレルギーがある場合は、ST合剤やメロペネムにて治療を行う。ST合剤は、妊娠12週までの場合葉酸代謝に影響を及ぼし、出産の4週前から胎児に核黄疸を起こす可能性があるため、この期間に感染した妊婦には使用できない。治療期間は菌血症で2週間、髄膜炎で3週間、脳膿瘍や脳炎で6-8週間、心内膜炎で4-6週間である。
予防として、肉の十分な加熱調理、野菜や食器の洗浄、殺菌されていない乳製品を避けるなどの対策が必要だが、妊婦などのリスクの高い場合は、更にソフトチーズや調理済み食品やデリカテッセン食品を避けるか十分に再加熱するなどの対策が必要である。
(参考文献)
Up to date “Epidemiology and pathogenesis of Listeria monocytogenes infection”
“Clinical manifestations and diagnosis of Listeria monocytogenes infection”
“Treatment, prognosis, and prevention of Listeria monocytogenes infection”
Vanitha Janakiraman “Listeriosis in Pregnancy: Diagnosis, Treatment, and Prevention” Obstetrics &Gynecology 2008 Fall.179-185
Jeffery T.McCollum “Multistate Outbreak of Listeriosis Associated with Cantaloupe” NEJM 2013(369) 944-53
Elizabeth L. Hohmann, Daniel A. Portnoy “Listeria monocytogenes感染症” ハリソン内科学第4版 p.1041-1043
日本食品安全委員会〈http://www.fsc.go.jp/〉(2013/10/15アクセス)
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