『関節痛の鑑別』
関節の痛みは関節痛と関節周囲痛に大別され、まず関節近辺の軟部組織や骨が痛みの原因でないかどうかを確認する必要がある。痛みのある関節の可動性が保たれており、かつその部位の滑液包・腱・靭帯などを触診することで痛みが引き起こされる場合は、関節以外に痛みの原因がある場合が多い。一方関節の他動運動によって痛みが増強したり可動域制限が生じたり浮腫や紅斑を伴う場合は、関節が痛みの主座である可能性が高まる。関節痛は炎症性の関節炎と非炎症性のもの(外傷・変形性関節症・無血管性壊死)に分類され、関節炎は更に急性と慢性、単関節炎と少関節炎と多関節炎に分類され、鑑別のポイントとなる。また関節穿刺を行い得られた結果が鑑別に非常に重要となる。
単関節における疼痛では、外傷性・淋菌性関節炎・非淋菌性敗血症性関節炎・Lyme病・結晶性(痛風・偽痛風)・変形性関節症・腫瘍を鑑別に挙げる。急性で単関節の症状が認められる場合は外傷・感染・結晶性疾患が最も疑わしい。外傷は受傷時に患者の意識がなかった場合不明であることが多いので十分な身体診察を行いレントゲンを撮影する。関節穿刺液が血性である場合は外傷・偽痛風・腫瘍を示唆する。白血球が2000を超えかつ多核球が75%を超える、という条件を満たさない場合は変形性関節症・関節内損傷を示唆する。条件を満たす場合は白血球が10万を超えかつ培養陽性グラム染色陽性の細菌が検出された場合は化膿性関節炎(関節液中白血球数が17,500/mm^3以上の場合感度 83%、特異度 67%、陽性尤度比 2.5、陰性尤度比 0.25;関節液中白血球数が25,000以下、25,000以上、50,000以上、100,000以上で尤度比0.32、2.9、7.7、28.0)、結晶が見つかれば痛風・偽痛風を疑う。以下に急性単関節炎の主な鑑別をまとめる。
化膿性関節炎には淋菌性と非淋菌性があり、播種性淋菌感染症は若年成人における急性発症・非外傷性の単関節炎・少関節炎で最多である。通常、腱滑膜炎・水疱膿胞性皮膚障害・移動性多関節痛の3徴、もしくは皮膚障害を伴わない関節炎のどちらかの病像を示す。関節液のグラム染色は感度が50%以下とされ、性交渉歴の聴取や咽頭・子宮頚部・尿道などの培養が診断に有用である。一方、非淋菌性敗血症性感染症は非可逆的な関節破壊を来すことがあるため急性単関節炎において最も危険であり必ず鑑別しなければならない。膝関節や股関節などの大関節に症状を起こすことが多く、起因菌としては黄色ブドウ球菌が最多であり、次いで肺炎球菌の頻度が高い。特に免疫不全患者や人工関節を挿入されている患者においてリスクが高く、積極的に疑う。
結晶誘発性関節症には痛風と偽痛風とがある。痛風は典型的には第1中足趾節関節において急性に激痛・発赤・腫脹をもたらす、最も一般的な結晶誘発性関節障害であり、時に下肢の関節や肘関節にも生じる。偽痛風は痛風とよく似た症状を引き起こすが、50%の患者において変性関節炎を呈し膝関節を侵すことが最も多く、特に高齢者では両側性になることも多いなど、痛風とは異なる側面も持つ。痛風と偽痛風の鑑別は関節穿刺液で行う。
多関節における疼痛では、リウマチ性疾患(関節リウマチ・SLE・乾癬性関節炎・その他の全身性リウマチ性疾患)・感染性関節炎(細菌性・ウイルス性)・感染後関節炎(腸管感染後・リウマチ熱)・線維筋痛症・甲状腺機能低下症・神経痛・代謝性骨疾患・うつを鑑別に挙げる。滑膜炎があり、6週間未満の経過の場合はウイルス性関節炎を念頭におく必要がある。B型肝炎ウイルス・C型肝炎ウイルス・風疹・HIV・パルボウイルスなどが多関節炎の原因としてよく見られるウイルスである。多関節炎で滑膜炎があり6週間以上疼痛が持続している場合は関節リウマチやその他のリウマチ性疾患を第一に考慮し、鑑別のためCBC・ESR・RF・ANA等をチェックする。
参考文献:Up To Date; Evaluation of the adult with monoarticular pain(1)Evaluation of the adult with polyarticular pain(2)リウマチ・膠原病診療マニュアル(3)Margaretten ME, Kohlwes J, Moore D, Bent S. Does this adult patient have septic arthritis? JAMA.. 2007 Apr 4;297(13):1478-88.(4)
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