柴胡加竜骨牡蠣湯について
中国医学の三大古典のひとつである『傷寒論』の太陽病中編には柴胡加竜骨牡蠣湯について「傷寒八九日、胸満煩驚、小便不利、譫語、一身盡とく重く、転側すべからざる者は、柴胡加竜骨牡蛎湯之を主る。」とあり、これは「急性の熱病で8、9日が過ぎ、このせいで胸が苦しくもだえるような思いがし、物事に敏感になり、小便が出ず、ときにたわごとを言い、身体が重くて寝返るのも辛いような者はこの湯によって治療される。」という意味である。*1
その構成は、柴胡、桂枝、人参、茯苓、竜骨、牡蠣、半夏、大黄、黄岑、大棗、生姜である。大棗+生姜には「胃腸管内への水分の排出の抑制作用」があり、そこに半夏の「嘔吐改善作用」と黄岑の「下痢改善作用」とが追加されているような構成である。よって反嘔吐作用と反下痢作用が十分にあるはずであるが、ここに大黄+人参の「経胃腸排水作用」が追加され、反下痢作用が軽減されて、むしろ軽度の緩下作用が追加されている。このような基本構成のうえに、次のような作用が追加される。すなわち、柴胡+黄岑は胸脇苦満(両側季肋部から脇腹、側胸部にかけての鈍痛や圧痛)を抑える作用をもち、竜骨+牡蠣+茯苓は鎮静作用や胸腹の動悸を沈め不眠、興奮などの精神症状を治す作用をもつ。桂枝は上衡(のぼせや胸の息苦しさ)を治す。半夏+茯苓は駆水作用(浮腫、多汗、鼻汁、痰、嘔吐、下痢、排尿異常など体内水分の停滞や代謝異常による諸症状を改善する作用)をもつ。*2
緊張型頭痛、めまい、動悸、高血圧、不整脈、便秘、下痢、甲状腺機能亢進症、自律神経失調症、不眠、抑鬱状態、躁鬱病、統合失調症、てんかん、神経症(ノイローゼ、不安神経症、強迫神経症、高所・閉所恐怖症、対人恐怖症)、ヒステリー、頸椎症、肩こり、急性腎不全、慢性腎不全、インポテンス、多汗症、円形脱毛症、吃音、小児夜啼症、小児てんかん、幼児自閉症、夜尿症、更年期障害、術前術後の不眠などが適応となるが、このうち、比較的体力のある人で、心窩部や季肋部に圧痛や充満感を伴い、また胸腹部に動悸をふれ、イライラや不眠、興奮などの精神症状を伴い、神経質な性格でストレスを感じやすく、そのストレスが病態の一因となっていると考えられる場合はよい適応となる。*3
重篤な副作用として間質性肺炎があげられる。中高年に好発し、発症頻度は0.004%である。基礎疾患には慢性肝障害、特にHCV抗体陽性例が75%を占め、服薬から症状発現までの期間は6ヵ月以内、多くは2ヵ月以内である。*4
(参考文献)
*1 新版漢方医学 p260~261、日本漢方医学研究所編、自然と科学社
*2 近代漢方 各論 p75~76、p401~403、遠田裕政著、医道の日本社
*3 臨床医の漢方処方 第3版、満川博美著、医歯薬出版株式会社
*4 学生のための漢方医学テキスト p32~34、39、61、日本東洋医学会
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