境界性パーソナリティ障害borderline personality disorder(BPD)の有病率は1~2%で、女性に多く、男性の2倍と考えられている。遺伝研究では、統合失調症とは有意な関係はないとされている。10年以上の経過研究では、約2/3の患者が比較的良好な社会適応をしているが、自殺例が9%あまりある。自己愛性パーソナリティ障害や演技性パーソナリティ障害、反社会性パーソナリティ障害などを合併することがある。
合併する精神障害として多いのは、気分障害、神経性過食(大食)症、薬物依存である。神経性過食症では55%あまりにⅡ軸診断(不安障害や統合失調症など症状の障害に対するⅠ軸診断に対して、パーソナリティ障害をⅡ軸診断という)としてBPDをもつという報告がある。あるいは、家庭内暴力や親への依存的行動のため、両親から受診の依頼があったり、強い不安やさまざまな身体的訴えのため本人自身の依頼があり、精神科初診ないし入院となることもある。自傷行為や自殺企図も頻回のため、パーソナリティ障害全般のなかでも精神科で治療する機会の多い障害である。いったん患者との言語的かつ非言語的な交流が始まると、新たにさまざまな問題行動が生じることがよくあり、治療的管理がなかなか難しい病態を内に秘める。
また、身体的疾患を偽装する虚偽性障害factitious disorderであるミュンヒハウゼン症候群Munchhausen syndromには、Ⅱ軸診断にBPDをもつものが少なくない。彼らは、激しい腹痛を訴え、急性腹症と診断されて頻回手術polysurgeryを受けるといった形で、病院を転々とする。
●特徴
確固たる自己を感じないことやそれに対する不安、同一のものを両極端にかつ大げさに知覚する不安定で激しい認知スタイルやそれに基づく対人関係、現実にまたは想像の中で見捨てられることに対する不安、不十分な自己制御、自己を傷つけうる行為や自殺の行動・そぶり・脅しの繰り返しが存在する。
●治療者との関係、治療
とりわけ治療者との関係のなかでは、治療者に対する過度の接近と理想化、つまり陽性転移が起こる一方で、これに引き続き、当人の理想が達成されない現実を少しでもかいま見ると、一転して否定的な価値づけ・感情の出現、つまり陰性転移が起こり、攻撃的態度や怒り・脅迫が表わされ、さらには自傷行為や自殺企図がなされることもある。あるいは身体的訴えが出現することもある。いわゆる家庭内暴力がこの攻撃的な態度の延長で生じることもある。時に、当人にとっての負荷的状況に直面して、一過性の妄想様観念などの精神病様症状を呈する。
治療は、大きく個人心理療法(精神分析的心理療法、支持的心理療法、短期心理療法、認知・行動療法、弁証法的行動療法、認知的対処療法、スキーマ療法、対人関係アプローチ)と集団療法に分けられる。
個人心理療法の一般的な原理についてのコンセンサスは、おそらく一般診療においても適応できる。「限界と境界・スケジュール・料金・期待される患者と治療者の役割の設定と維持をはかることで、安定した治療環境を維持すること」「自己破壊的な行動が満足を与えないようにすること」「逆転移の感情に十分な注意が払うこと」などが言われている。
●鑑別診断
躁うつ病で不安・焦燥のために怒りや暴力的行動を呈する症例が少なくない。とりわけ若い女性でこの種の混合状態が出現すると、BPDと診断され、適切な薬物療法がないがしろにされてしまうので、注意を要する。
BPDと結びつきやすいのは、全般性不安障害、パニック障害、気分変調症で、それに加えて統合失調感情症、心気症、解離性障害(特に心因性遁走)も短期反応性の精神病となる。
●予後
30代から40代の間に、BPDの人は人間関係や職業上の機能において安定する。外来のフォローアップ研究は、10年ほどたつと、半分もの人がもはやBPDの基準に完全に当てはまらなくなる。
参考文献
標準精神医学 第5版 医学書院
境界性パーソナリティ障害=BPD R. Kreger, P. Mason, 荒井秀樹 星和書店
パーソナリティ障害:診断と治療のハンドブック L.Sperry 近藤喬一、増茂尚志 金剛出版
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