洪水でリスクが高まる感染症の原因として皮膚損傷などの一次的なものと、生活環境・衛生環境の変化などにより二次的なものがある。
一次的なものとして、皮膚からの直接的な感染がある。洪水による外傷で創部の化膿で破傷風、ガス壊疽、炭疽があり、これらは災害直後に増える。
二次的なものには水系感染症、ベクター媒介によるもの、人獣共通感染症、人-人感染によるものがある。
l 水系感染症
洪水による感染症の最大のリスク因子は飲料水設備の汚染である。水源として利用していた河川、湖沼、井戸などが、患者の体液、汚物により汚染され、コレラ、細菌性赤痢、腸チフスが起こり、感染した動物や死体による水の汚染ではレプトスピラ症、ペスト、 ハンタウイルス感染症が起こる。
l ベクター媒介
媒介動物の生息域の拡大による感染症もある。水たまりが増えることや、人の移動により、デング熱、ウエストナイル熱、日本脳炎、黄熱、マラリア、フィラリアが流行する。洪水発生後は幼虫も洗い流され、6〜8週後に流行する。
l 人獣共通感染症
野生動物との接触やし尿に汚染された水、湿地、草木に皮膚や粘膜が触れ、レプトスピラ症、狂犬病、発疹チフス、ツツガムシ病、ハンタウイルス、ペスト、トキソプラズマ症、 エキノコッカス(包虫症)、住血線虫症が流行する。特にレプトスピラは大流行する。
l 人-人感染
人口が密集する避難所での感染として、経口感染ウイルス性感染症(ノロウイルス、ロタウイルスなど)、A型肝炎、E型肝炎、アメーバ性赤痢、 クリプトスポリジウム、ランブル鞭毛虫、インフルエンザ、髄膜炎菌性髄膜炎、麻疹、結核がある。
医療従事者の対応としては情報の収集と予防が大切である。
浸水状況、感染症の流行状況、医療従事者の住居状況(避難所滞在者はリスク高い) 、医療アクセスの状況 、欠勤した医療従事者や家族の健康状態や欠勤理由の把握をする。感染症の流行状況は、予防のために大切で、医師同士や現地の公衆衛生スタッフと連絡を取り合う体制を確保する。感染症の発生リスクは上記のように時間の経過と共に推移するため流行状況の確認は繰り返し行う必要がある。
予防では、手洗い・汚染水に触れない 、発熱、咳、下痢、嘔吐等の症状がある人は隔離する、予防接種、病院の清掃・消毒などを行う。水系感染症の予防には、飲料水と栄養の適切な供給が非常に重要である。避難所での感染の予防には住居の確保、食料、水、トイレ、ゴミの廃棄など衛生や環境を整える必要がある。また、事前の予防接種も重要である。
正確に情報を収集し、徹底した予防で感染症の蔓延を防がなくてはならない。
参考文献:國井 修『災害時の公衆衛生』南山堂
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