カバ(学名Hippopotamus amphibius)はサハラ以南の地域の川や湿地に生息し、特にウガンダ、ケニア、タンザニア、モザンビーク、ザンビアといった東アフリカに多く生息する。その外見からおっとりして無害な印象を持ちがちであるが、以下に述べるように人間に危害を加えることがあるため、注意が必要である。
カバの襲撃による死者
カバは人間を襲うことがある。1年間でカバに襲われて亡くなる人は3000人近いとされており、その数は近年増加傾向にある。干ばつで特に増加するという報告もいくつかあり、農地開発などにより生息地を追われていることと関係していると推測できる。WHOはカバの生息するような水場で泳ぐことは避け、カバの危険性に詳しいガイドとともに行動するようすすめている。
カバ咬傷および人獣共通感染症
カバに襲われると多くは致命傷になると考えられるが、そうでなかった場合は傷の治療が必要となる。
基本的には他の動物による咬傷と同様に治療すればよい。すなわち、傷の洗浄、デブリドマン、動物が保有すると考えられる菌をカバーする抗菌薬の投与、破傷風トキソイドの投与を行い、骨折や組織の損傷がある場合にはその修復を行う。ただし、カバの口腔内細菌叢は明らかでない(少なくとも、それについての記述は発見できなかった)ため、創部の培養結果が出るまでは他の動物と同様、GPC、GNR、嫌気性菌などを含め広域にカバーするべきだろう。実際、Picklesら、Linらによる症例報告では、ペニシリンまたはセファゾリン、ゲンタマイシン、メトロニダゾールの3剤投与で初期治療がなされており、特に感染の増悪はなかったとされている。
カバに感染する人獣共通感染症としては、Burucella、Echinococcus、Toxoplasma gondiiなどが挙げられる。また、1988-89年と2011年にはザンビアでカバによる炭疽菌(Bacillus anthracis)のoutbreakが報告されている。カバからヒトへの感染も報告されており、旅行者への感染も発生している。したがってカバ咬傷の患者やカバとの接触歴の疑われる患者はこれらの感染症も念頭において診断、治療を進めることが望ましいと考える。
動物咬傷で問題になることの多い感染症として狂犬病が挙げられるが、カバが狂犬病ウイルスに感染するといった報告は見つけることができなかった。症例報告においても狂犬病ワクチンの予防投与はなされていなかった。しかし、報告数の少ない野生動物による咬傷であること、すべての哺乳類が感染しうると考えられていること、万一発症したときのリスクを考えると、受傷後の狂犬病ワクチンの予防投与は合理的であると考える。
襲撃の危険性を考えれば、野生のカバやその生息地に安易に近づくべきではない。また、カバとの接触による外傷や感染の患者を診療する場合でも、稀なケースだからといってうろたえることなく、外傷診療や感染症診療の基本に立ち返ることが重要である。このことは、カバに限らずともいえることである。
参考文献
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World Health Organization, Guidelines for safe recreational water environments Volume 1: Coastal and fresh waters, 2003
World Health Organization, Anthrax in humans and animals FOURTH EDITION
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Pickles G., Injuries by wild animals in the African bush, J R Army Med Corps. 1987 Oct;133(3):159-60
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