アメーバ症とは、原虫の赤痢アメーバEntamoeba histolyticaによる感染症である。非病原性のE.disparやE.moshkovskiiの感染数はE.histolyticaと比べて約10倍との報告があり、世界人口の10%が感染しているとされている。
赤痢アメーバは2つの発育期(嚢子cyst・栄養型trophozoite)を有す。糞便で汚染された食品・水・口肛門性交を介して、嚢子を経口摂取することで感染が成立する。嚢子は小腸にて脱嚢し、栄養型となる。栄養型は、大腸内腔に定着するか腸粘膜に侵入しアメーバ性大腸炎を引き起こす。また、大腸粘膜・門脈を経由して肝臓に到達することで肝膿瘍を起こすことがある。大腸内腔に寄生する嚢子が糞便とともに排泄されることで、生活環が維持される。
多くの感染例は無症状だが、毎年およそ4~5000万人が大腸炎・肝膿瘍などの消化管外感染として発症している。発展途上国での有病率が高く、流行地(メキシコ・インド・アフリカ・中南米・アジア)への渡航歴がある者に主にみられる。性交渉のある同性愛者や収容施設内居住者も感染リスクは高いと報告されている。
アメーバ性大腸炎の症状として、一般に嚢子の経口摂取2~6週間後に、下痢(94~100%)・血便(94~100%)・腹痛・発熱(8~38%)がみられる。
アメーバ性大腸炎の診断は、下痢を伴う患者の糞便検鏡・抗原検査・血清学的検査を実施することで行われる。糞便検鏡は3回行うことで、検出感度は上がる(85~95%)。赤痢アメーバ抗原のELISA法も有用で、感度87%・特異度90%以上となっている。血清抗体の感度は約90%となっている。PCRは赤痢アメーバの同定法として現時点で最も感度・特異度(100%)が高いが、まだ臨床診断に広く利用されていない。
急性大腸炎の患者で、臨床的にアメーバ性大腸炎が疑われるが糞便検査で陰性というケースでは、大腸内視鏡検査・腸粘膜生検を行うことで、他の疾患と鑑別できる。鑑別診断としては、細菌性腸炎(赤痢菌・カンピロバクターなど)・炎症性大腸炎・虚血性大腸炎・偽膜性腸炎・住血吸虫症などが挙げられる。細菌の便培養も鑑別に有用である。
アメーバ性肝膿瘍の症状として、一般に流行地から帰国数か月~数年後に、右季肋部痛・発熱がみられる。下痢は1/3以下、黄疸は10%以下しかみられない。肝腫大・圧痛は約半数でみられる。検査所見として、白血球増加・ALP高値・肝逸脱酵素高値がよくみられる。
アメーバ性肝膿瘍の診断は、海外渡航歴・発熱・右季肋部痛のある患者の腹部CT・血清学的検査を実施することで行われる。赤痢アメーバに対する特異抗体の検出は、来院時92~97%となっている。アメーバ性肝膿瘍の穿刺で、赤痢アメーバ栄養型が検出されるのは20%以下であり、診断にルーチンで行わない。
鑑別診断としては、細菌性肝膿瘍・エキノコッカス・肝腫瘍などがあげられる。
アメーバ性大腸炎・肝膿瘍の治療の第1選択薬は、メトロニダゾールとチニダゾールである。メトロニダゾール750mg po q8hで7~10日間、またはチニダゾール 2g po qd で3日間の投与が推奨されている。
また、腸腔内の嚢子を確実に根絶するために腸腔用治療薬を使用する必要がある。パロモマイシン 10mg/kg po q8h で7日間が推奨されている。
参照:UpToDate - Intestinal Entamoeba histolytica amebiasis
Extraintestinal Entamoeba histolyca amebiasis
ハリソン内科学 p1471-1475
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