HIVとHBVが同時感染することは珍しいことではない。多くは性交渉によりHIVに感染した患者で、HBVも同様に水平感染した可能性が高いとされる。場合によっては片方のウイルスのみ治療することもあるが、今回はHBV、HIV両方の治療について述べる。ここで問題となるのがウイルスの耐性化である。
現在使用されている抗HBV薬の多くには抗HIV作用がある。また抗HIV薬の中にも抗HBV作用を持つものがあり、両者は同一ではない。抗HIV・HBV作用のある薬剤を単独でHBVの治療に用いるとHBVが耐性化する(ラミブジンの所で後述)。[1]もちろんHIVも耐性化することがある。
HBV治療に用いられる核酸アナログにはラミブジン、アデフォビル、エンテカビルがある。このうちラミブジンはART(HIVの治療法で抗レトロウイルス療法のこと)でも用いる。アデフォビルは大量に
使用すると、またエンテカビルは常用量でも抗HIV作用を持つ。よって、抗HIV作用を持たない核酸
アナログでHBV感染症を治療することは困難でHIV・HBV合併感染では抗HIV作用のある薬剤を使用することになる。また、ARTに用いられる核酸アナログの中で抗HBV活性を持つものはエムトリシタビン、ラミブジン、テノフォビルである。これらの薬剤のうち2剤以上を用いたARTを行う。[1]
以下に「耐性の原因となる変異」「薬剤の耐性」「どの薬剤の組み合わせが良いのか」について示す。
M184V:ラミブジン、エムトリシタビン、エンテカビル投与で起きる変異。HIVの耐性。K65Rによる
テノフォビル耐性を相殺。またK65Rと共存でfitness(ウイルスの複製に適した状態)が落ちる。[2]
K65R:抗HIV薬使用時にみられる変異。ジドブジン以外の全てのNRTI(核酸逆転写酵素阻害薬)に対し
て耐性を有する。TAMとの共存はしにくいとされる。⇒TAM:thymidine analogue mutations。
ラミブジン、エムトリシタビンを除くほかのNRTIに交叉耐性を示す変異のこと。
TAMがM41LのL210Wどちらかを含む3箇所までならテノフォビルは有効だとされる。[2]
ラミブジン:前向き研究でHIV・HBV重複感染患者81人にラミブジン単独投与を少なくとも6ヶ月
したところ、65%がHBV血症で2年以内に50%、4年以内に90%からラミブジン変異が起きた。[3]
エムトリシタビン:522人のHIV患者にエムトリシタビンを48週投与したところ、治療が奏功しなかっ
た26人のうち5人(19.2%)にM184V変異がみられた。 [4]
アデフォビル:29人のHIV患者にアデフォビルを6-12ヶ月投与すると、8人のHIVからM184V RT[5]
テノフォビル:135人のHIV患者にテノフォビルと他のNRTIを96週投与したが、K65Rは3.2%のみ。
TAMは多くの患者がもっていたにも関わらず、テノフォビルへの抵抗性は3.2%しか出なかった。[6]
単剤か組み合わせによる治療か:WHV(ウッドチャック肝炎ウイルス。ヒトのHBVに似ており、肝癌発
生モデルによく用いられる)モデルによると、「アデフォビルADV、テノフォビルTDF、ラミブジン3TC、
エムトリシタビンFTCを単剤で用いるor 2剤の組み合わせ」をそれぞれ48週投与したところ、
(ADF or TDF)+(3TC or FTC)の組み合わせがどの単剤療法よりも優れていた。特に3TC+ADFと
FTC+TDFが最も効果が高かった。(それぞれWHV血症が6.2 log10と6.1 log10 genome
equivalents/ml serumの減少、他は2.0-5.6 log10)[7]また、抗HIV治療ガイドライン[8]もあわせて
考えるとFTC+TDFがもっとも良いと考えられる。
以上よりHIV/HBVの治療として推奨されるのは、治療成績が良く耐性もできにくいとされるテノフォビルを用いた「テノフォビル+エムトリシタビンorラミブジン」を使用したARTである。[1]
ただしテノフォビルは副作用(腎障害など)が存在するので慎重投与とするか、使用できない時は「エンテカビル(HBV薬として)+アバカビル+リトナビルブーストしたダルナビル(キードラッグ)」など。[8]
[1]「HIV・HBV重複感染時の診療ガイドライン 2009」[2] HIV薬剤耐性検査ガイドライン
[3] AIDS. 2006;20(6):863. [4] HIV Clin Trials. 2011 Mar-Apr;12(2):61-70. doi: 10.1310/hct1202-61. [5] J Infect Dis. 1999. Jan;179(1):92-100 [6] AIDS Rev. 2004 Jan-Mar;6(1):22-33.
[7] Antimicrob Agents Chemother. 2008 October; 52(10): 3617–3632. Fig.1
[8]抗HIV治療ガイドライン2013
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