HIV患者におけるサイトメガロウイルス(CMV)の二次予防の中止可能な状況とその根拠
HIV感染症患者においてCMVは、網膜炎・食道炎・胃腸炎・神経炎・脳炎など様々な臓器感染症を引き起こすことが知られている。Centers for Disease Control and Prevention(CDC)によると、antiretroviral therapy (ART)療法の登場により新たなCMVの臓器感染症は75%~80%も減少し、現在での年間感染率は6%以下と報告されている。
United States Public Health Service and Infectious Diseases Society of America (USPHS/IDSA)によるガイドラインでは、ART療法によりCD4陽性T細胞数を100個/μl以上に維持することが最もCMVの二次予防となるとされている。CMVの二次予防治療を行い、ART療法によりCD4陽性T細胞数が100個/μl以上に回復してきている状況が3~6ヶ月以上継続しており、病変部の解剖学的な位置やもう一方の眼の視力などを考慮した上で、眼科医による定期的な経過観察が可能な状況であればHIV患者におけるCMVの二次予防の中止が可能としており、CD4陽性T細胞数が100個/μlを切れば、CMVの二次予防を再開することを推奨している。また、この基準はCDCも支持している。
USPHS/IDSAはガイドラインの根拠としてCMV網膜炎のコホート研究を挙げている。二次予防についてガイドラインが数あるCMV臓器感染の中で判断材料にCMV網膜炎を用いていることや、二次予防に関して他の臓器感染に触れていないのは以下の3つの理由からと考察した。①.CMV網膜炎はAIDS患者のCMV臓器感染症の75~85%に見られる最も頻度の高い臨床症状であり、ART療法が登場する以前はAIDS患者の実に30%が診断から死亡までにCMV網膜炎に罹患するとされてきたこと。②.網膜以外の臓器感染では症状が非特異的であり、病理組織によって核内封入体を確認せねばその他の疾患を除外できない上、診断感度が低い。それに対し、網膜炎ではCMV感染細胞の証明は必須ではなく、網膜血管周囲おける特徴的な黄色~白色変化を散大瞳孔から眼底検査で見ることと水晶体のPCRを行うことで発症と進行が診断でき、また臨床検査の感度も95%と高く低侵襲なので定期的な検査にも使用しやすいこと。③.PCR法や培養はCMV血症を診断できても、検査が陽性なだけでは臓器感染を起こしているのか、単にCMV血症なのか分からないため診断的価値は低いこと(培養はCMVの薬剤耐性が分かるので治療に役立つと思われる)。
また、CD4陽性T細胞数が50個/μl未満の患者のCMV網膜炎の年間再発率は58%(0.58/人年)であるのに対して、CD4陽性T細胞数100個/μl以上の患者のCMV網膜炎の年間再発率が3%(0.03/人年)であることから、USPHS/IDSAはCD4陽性T細胞数100個/μlを超えた患者を対象としていると考察した。
この研究では不活性なCMV網膜炎に対して二次予防治療を行っているCD4陽性T細胞数が50個/μl以下でART療法下の免疫回復傾向の患者171人のうち、CD4陽性T細胞数100個/μlを超えた段階(71人)で、予防治療中止群(37人)と継続群(34人)に分けて経過を比較した。その結果、死亡率・網膜炎の進行・視力の変化・両側性網膜炎の発生率に統計的な有意差はなかった(経過観察の中央値5年)。
以上の結果から、上記のガイドラインは妥当性があると思われる。CMVの二次予防に主に用いるバルガンシクロビルの副作用である白血球減少、血小板減少、肝機能障害、腎機能障害などや薬価、NNT(number needed to treat)を考慮し、ガイドラインの基準を満たせば二次予防は中止することも検討すべきと思われる。
【参考文献】
1.Jonathan E. Kaplan, Constance Benson et al. Guidelines for the Prevention and Treatment of Opportunistic Infections in HIV-Infected Adults and Adolescents (USPHS/IDSA July 8, 2013)
2.Holbrook JT, Colvin R, et al. Evaluation of the United States public health service guidelines fordiscontinuation of anticytomegalovirus therapy after immune recovery in patients with cytomegalovirus retinitis. Am JOphthalmol. Oct 2011;152(4):628-637 e621.
3.Jabs DA, Van Natta M, et al. Course of cytomegalovirus retinitis in the era of highly active antiretroviral therapy: retinitis progression. Ophthalmology 2004;111:12.
4.Ljungman P, Griffiths P, Paya C. Definitions of cytomegalovirus infection and disease in transplantrecipients. Clin Infect Dis 2002;34(8):1094-7.
5.GallantE, Moore D et al. Incidence and natural history of cytomegalovirus disease in patients with advanced human immunodeficiency virus disease treated with zidovudine. The Zidovudine Epidemiology Group. 1992J. Infect. Dis. 166:1223–1227.
6. Timothy J Friel et al. Diagnosis of cytomegalovirus. (Up to Date. Jun 2013)
コメント
コメントフィードを購読すればディスカッションを追いかけることができます。