中国と台湾ではHBV(B型肝炎ウィルス)感染によるがんは、男性の三大死因の一つであり、女性のがんの主な原因となっており、対策として中国は1992年から、台湾では1984年からHBVワクチンを接種するプログラムを組んでいる。
台湾にて:
台湾ではHBVのキャリアが15%とアジアでも有数の多さであり、1986年からすべての新生児と子供にワクチンを打つこととなっている。新生児接種率は1986年には15%だったが1994年に84%まで上がっている。また、通常の三回接種とは別に、HBVキャリアの母親から生まれた新生児には生後24時間以内にHBV抗体が注射される。
台湾での小児肝細胞がんの発症とHBVワクチン接種の関連性を調べるため、台湾のNational Cancer Registryが調査を行った。台湾の肝細胞がんの症例すべて(6~14歳、1981年~1994年)がこの調査で使われた。6歳以下の患者は肝芽腫の症例の混入を防ぐため除外された。
結果は、1981年~1986年の発症率10万人中0.70人から1986年~1990年の間は0.57人、1990年~1994年の0.36人と順調に減少し、肝細胞がんによる死亡率も減少した。
中国にて:
中国では人口の約60%はHBVに感染した既往があり、中国人の9.8%はHBVの慢性感染の状態であり、肝疾患によって早死にする危険性がある。毎年、推定で26.3万人の人々がB型肝炎に関連する肝臓癌もしくは肝硬変により亡くなっている。これは世界中のB型肝炎関連死亡の37~50%を占めている。HBV感染のほとんどは新生児期か小児の早い時期において起こるので、感染は慢性化しやすい。そのため、出生直後の新生児に対して予防接種を行うことが慢性感染を防ぐための鍵となる。中国では、1992年に乳児のB型肝炎予防接種が導入され、2002年に定期予防接種に組み込まれた。
1999年と2004年に実施された全国的なワクチン接種率調査の結果によれば、1997年生まれの者と2003年生まれの者を比較すると、初回接種は29.1%から75.8%へ、3回接種については70.7%から89.8%へと増加した。
2003年~2006年にかけて、おおよそ1540万人の乳児がワクチン接種を受け、約147万人の慢性HBV感染症を予防し、26万5千の慢性肝炎による将来起きえた死を防ぐことができたと計算される。
また、中国は現在5歳以下の子供のHBV慢性感染者を1%以下にするという目標を立てているが、自宅出産の子供に生後24時間以内の接種をさせるということは今後の大きな課題がある。
まとめ:
HBVの感染を防ぐワクチンは、小児肝細胞がんの発症を抑え、死亡率も減らすことができる有効な治療法である。しかし、HBVワクチンが接種され始めてからまだ台湾で29年、中国で22年しか経過しておらず、実際にHBVによる肝細胞がんの好発年齢である50代、60代はまだ検証できていないのが現状である。今後20年か30年経たなければ、この接種による肝細胞がんの減少は見られないと思われる。すでに感染しているキャリアの高齢化もあり、HBVに関連する問題が解決されるには時間が必要である。
参考文献:
N Engl J Med. 1997 Jun 26;336(26):1855-9. Universal hepatitis B vaccination in Taiwan and the incidence of hepatocellular carcinoma in children. Taiwan Childhood Hepatoma Study Group. Chang MH, Chen CJ, Lai MS, Hsu HM, Wu TC, Kong MS, Liang DC, Shau WY, Chen DS
WHO:Weekly epidemiological record No. 24, 2007, 82, 209–224
WHO:Hepatitis B Fact sheet N°204 July 2012
http://www.who.int/mediacentre/factsheets/fs204/en/
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