ワクチンの効果とは
ワクチン接種は感染症制御において最もコスト効果の高い戦略とWHOでは考えられており、疾患を撲滅することに成功した唯一の医療行為である[1,2]。また、ワクチンは種類によっては長期間、ときには一生涯疾患を予防することができる[3]。ここでは、ワクチンの効果を「個人を守る」効果と「集団を守る」効果、そしてコスト効果の3つに分けて考える。
「個人を守る」効果には、罹患率の低下、死亡率の低下という2つが考えられる。アメリカにおけるワクチンで予防可能な疾患(ジフテリア、麻疹、風疹、先天性風疹症候群、百日咳、流行性耳下腺炎、ポリオ、破傷風、インフルエンザ)の罹患率、死亡率はワクチンの定期接種を始めてから90-100%減少しているというデータがある[2,4]。また、介護施設で肺炎球菌ワクチン接種を行ったところ、肺炎球菌による肺炎の罹患率、死亡率が減少したという報告もある[5]。これらから分かるようにワクチンは疾患の罹患率、死亡率を低下させることができる。
「集団を守る」効果とは、集団免疫herd immunityとも言われ、ある地域において十分な人数がある疾患に対するワクチン接種をした場合、その疾患がその地域で拡大するのを防ぐことができ、それにより間接的にワクチン接種を受けていない人が感染することを防ぐというものである[6,7]。ワクチン接種率が集団免疫閾値を超える場合にその効果は期待できる。集団免疫閾値とはそれぞれの疾患の伝播力や頻度によって異なるが、十分な集団免疫を得るために必要なワクチン接種率のことである。子どもにインフルエンザワクチンを接種すると、その家族の発熱疾患が接種していない子どもの家族に比べ少なかったという報告や長期療養型病院において医療従事者がインフルエンザワクチンを接種すると、高齢患者の死亡率やインフルエンザ様の症状の発症が減少したという報告がある[8,9]。
コスト効果とはワクチンで予防できる疾患にワクチン接種を行わずに罹患した場合の治療にかかる費用とワクチン接種にかかる費用を比較した場合、ワクチン接種にかかる費用の方が安いというものである。2005年のアメリカにおける小児のワクチン定期接種についての報告では、ワクチン接種に1ドル払うごとに医療費は5ドル以上節約でき、社会全体での経済効果ではおよそ11ドル節約できたと推定されている[4]。このことからワクチン接種には社会全体の経済効果があることが分かる。
しかし、ワクチンで副作用が起きることもある。稀ではあるが、インフルエンザワクチンによるギランバレー症候群やポリオの生ワクチンによるポリオ発症のような重篤なものも存在する[9,10]。
また、ワクチンの価値は①ワクチン接種による上記の効果、②ワクチン接種による副作用のリスク、③ワクチンを接種せずにその疾患にかかるリスク、④ワクチンを接種せずともその疾患にかからない可能性を総合的に判断して決定されるものである。ポリオの生ワクチンが導入された頃は生ワクチンの利益が不利益を上回っていたが、ポリオが激減した今日においては利益が不利益を下回っているとされている[9]。したがって、ワクチンの価値は時代や環境で変化するものである[9,11]。
上記の③ワクチンを接種せずにその疾患にかかるリスク、④ワクチンを接種せずともその疾患にかからない可能性について言及しているデータは乏しく正確にワクチンの価値を評価することは難しい。しかし、私はワクチン接種の利益は不利益を上回ると考える。なぜなら、④ワクチンを接種せずともその疾患にかからない可能性を知ることは実臨床では難しく、その他の3つより判断するとワクチンの効果が大きいからである。したがって、時代や環境に合ったワクチンであれば接種すべきであり、それと同時にワクチンにより重篤な副作用を起こした人に対してはきちんとした保障を整備すべきである。
〈参考文献〉
[1]WHO world health report 2002
[2] “Ethical issues for vaccines and immunization” (Jeffrey B. Ulmaer et al, NATURE REVIEWS IMMUNOLOGY Vol.2 Aplil 2002)
[3] http://www.historyofvaccines.org/content/articles/why-vaccinate (CDC accessed July 11, 2013)
[4] Vaccine Benefits (National Institute of Allergy and Infectious Diseases HP, last updated May 11, 2010)
[5] ”Efficacy of 23-valent pneumococcal vaccine in preventing pneumonia and improving survival in nursing home residents: double blind, randomised and placebo controlled trial.” (Maruyama T et al, BMJ 2010)
[6] Harrison’s Internal Medicine 18th Edition
[7]http://www.historyofvaccines.org/content/herd-immunity-0 (VACCINES accessed July 11, 2013)
[8] “Effectiveness of Influenza Vaccination of Day Care Children in Reducing Influenza-Related Morbidity Among Household Contacts” (Eugene S. Hurwitz et al, JAMA 2000;284:1677-1682)
[9]「予防接種は「効く」のか?ワクチン嫌いを考える」(岩田健太郎 光文社新書)
[10] “Seasonal influenza vaccination in adults” (UpToDate, last updated May 20, 2013)
[11]「ワクチンと予防接種の全て 見直されるその威力」(大谷明 金原出版株式会社)
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