お金の世界では、「リスクは分散させよ」と言います。貯金を全額、一社の株に、ひとつの投資信託に、貴金属に、不動産に、馬券に、、、ま、なんでもよいですが、こういう「一点買い」はお金のリスクヘッジとしては賢明ではありません。あ、ぼくって実はファイナンシャル・プランナーの資格持ってんですよ(2級)、マジで。
ところが、医療の世界では話が逆でして、むしろ集中させたほうがリスクは小さいのです。そういう意味でも、経済の原則を医療に無理やり適用するのは無茶があるのですね。いや、別に誰を当てこすっているのでもありません。
頭痛はAという神経内科医、肩こりはBという整形外科医、目のかすみはCという眼科医、喉の違和感はDという耳鼻科医、お腹の痛みはEという消化器内科医、不眠はFという心療内科医、、、でそれぞれバラバラに検査を受け、薬を処方されていると、あっという間に検査漬け、薬漬けになってしまいます。とくに薬局がそれぞれバラバラだと収拾がつかなくなります。検査漬け、薬漬けの問題はまた別の機会にお話しますが、日本の医者や薬剤師がかかえる大きな問題です。でも、検査漬け、薬漬けを自ら招いている患者さんがいることもまた事実です。逆に言えば、患者さんがより「賢く」なれば上手に検査漬け、薬漬けを回避できるのです。
というわけで、できるだけ医者の数を絞りましょう。世の中には、頭痛、肩こり、目のかすみ、喉の違和感、お腹の痛み、不眠をぜ~んぶ一人で見てくれる医者もたくさんいるのです。というか、これ、実はぜ~んぶ同じ病気が原因だったりして、たったひとつの薬だけで治してくれる医者だっているのです。検査なんてひとつもせずに、です。
日本の医療は伝統的に大学の医局制度が強く影響しており、「横幅が狭い」医者が多いのが特徴です。つまり、自分の専門分野しか診ることが出来ない医者です。専門分野は近年どんどん細分化されています。以前は「血液」でまとめられていた専門領域も、最近は「あ、ぼくは白血病が専門だから、貧血は見ないよ」みたいにさらに細分化されます。整形外科なんかも膝の専門家、腰の専門家、肩の専門家と細分化が進みます。今に「私は20代女性の左の膝だけが専門だよ、うふふ」とかいうマニアックな細分化が起きる、、、かな?
そういう細分化された医者は大学病院に多いですが、じゃ、開業医さんだったら大丈夫かというとそうとは限りません。多くの開業医さんは大学病院で育てられているからです。
でも、最近は横幅が広く、自分の専門領域に加え、「のりしろ」のついた医療、横幅の広い医療をできる医者も増えてきました。ぜひ、かかりつけ医のお医者さんに「実は○○で困っているんですけど、先生に診てもらうことってできるでしょうか」と聞いてみてください。自己判断で別の病院にいきなりいくより、うまくいくことが多いかもしれません。そして、様々な相談をしても、「それはですね、、、」と答えを出してくれることの多い医者をかかりつけ医に持つことをオススメします。
薬局もそれぞれの医療機関の目の前にあるものにせず、一つにまとめるのが理想的です。まあ、特殊な病気とかだと全ての薬局で扱っていない可能性もありますが、それでもせめてお薬手帳はひとつにまとめるべきです。お薬手帳をいくつも持っていて、別々にたくさんの胃薬とか眠剤とかもらっている患者さんを時々見ます。これは患者自ら招く薬漬け地獄で、危ないですよ。
というわけで、医療の世界のリスクヘッジは分散ではなく集中です。医者はなるたけ1人、薬局はひとつが理想です。お薬手帳は絶対に1つにまとめましょうね。
とはいえ!
どんなに優れた医者でも、「なんでも診る」のは不可能です。すぐれたかかりつけ医はかすみ目や結膜炎は診ることが出来ても、白内障の手術や網膜剥離の治療は専門性の高い眼科医にしかできません。日本の医者はもっと「横幅を広く」持つべきですが、専門性が高いこと「そのもの」が問題なのではありません。
横幅は広めな方がよいのですが、「なんでもみれる」はやや危険なキーワードです。その言葉が呪いの言葉となり、患者さんを他の医者に相談できなくなってしまうからです。
むしろ、自分のプライドよりも患者さんの治療を優先させ、優れた専門医にさっとつなげてくれるのが真にすぐれたかかりつけ医です。7割くらいは自分でできるけど、残りの3割は上手に専門家につなげる、、、くらいが良いバランスかな、だいたい。
このように「横幅の広い」医者が増えると、実は医者にとっても良いことがあります。専門家外来にたくさん「軽症の」患者さんが押し寄せると、その外来は疲弊して質が落ちます。他の医者にそういう軽症患者を診てもらい、難治性、重症例に集中できるようになれば、その専門医の専門性も高まっていくからです。「横幅の広さ」は「縦軸の長さ」を担保するんです。
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