前回お示ししたように、薬と薬は「合わない」ことがあります。AとBの薬の相互作用はePocratesなどのアプリを使えばすぐチェックできます。しかし、これがAとBとC、AとBとCとD、AとBと、、、以下同文、、、となると、もうコンピューターを使ってもチェックできなくなります。
お薬をいろいろなところから、たくさんもらっている患者さん、とても多いです。こういう患者さんは、実は未知の相互作用、未知の副作用の危険に常に晒されているのです。
ぼくは、あるときある場所で、けいれん発作をおこした患者さんを見ていました。おくすり箱をみるとビックリ!10種類以上の精神科の薬が処方されていました。しかも、トンプク薬もいくつか追加されていました。似たような作用の薬が何種類も処方されていました。三環系の抗うつ薬が「調子が悪い時に飲んでね」ととんぷくで出されていました。何が言いたいのか分からない読者もおいででしょうが、最後の文章でひっくり返った医者も多いことでしょう。
で、知り合いの精神科医に相談し、全ての薬を全部中止しました。それで、けいれん発作は収まりました。その後のケアは、、、、、ま、本稿の主題から外れるので、それは割愛。
こういうふうに、薬が増えて増えて、増えていってしまうことを英語でポリファーマシーと言います。ポリとは警察、、のことではなく、「たくさん」の意味です。ファーマシーとは薬のことです。
ポリファーマシーは、とくにたくさんの病気を持つ高齢者に多いです。そして、皮肉なことに、ポリファーマシーの副作用に苦しみ安いのも、やはり高齢者なのです。ぼくは自分の師匠に、「とにかく8つ以上薬が処方されていたら、やめろ。なんでもいいからやめろ」と教えられていました。若干、乱暴な教訓ですが、かなりの真実を突いていると思います。
最近は、徳田安春先生の「提言ー日本のポリファーマシー」のような本ができて、ようやくこの問題にも本気で取り組もう、という空気も見られるようになりました。すでに述べたように、日本の医療はロジックではなく、「空気」が方向付けています。ポリファーマシーはよくないんだよ、という空気を上手に醸造し、やたらめったら薬を処方する悪癖から、はやく脱却すべきだと思います。
とはいえ!
ポリファーマシーは日本の医者の悪意の反映ではありません。むしろ、善意と誠実さの反映であると思います。それと、日本の医者の完璧主義の反映であると思います。
とにかく、日本の医者は問題点をすべて解決しないと気が済まないんですね。それと、検査の解釈が平坦なので、異常検査値は全部正常化しないと気が済まない。だから、尿酸が高いと尿酸を下げる。血糖が高いと血糖を下げる、コレステロールが高いとコレステロールを下げる、評判が高いと評判を、、、なにも、評判が高くったって下げる必要はありませんが、まあとにかく「正常化」にしないと気持ちが悪い。
でも、そうやって全ての細かい問題を片っ端から正常化しようとすると、薬の害のほうが大きく出て、全体としては患者さんの不利益になります。木を見て森を見ず、なんですね。
だから、「たしかにこの人血圧ちょっと高いけれど、他の薬がもう多いから、そこは目をつむっておこう」くらいのほうが患者さんのためにはよいことも多いのです。もう少し肩の力を抜いて、良い意味でチャランポランな医療をやったほうが、患者さんのためにもなりますし、医者の精神衛生上も健全です。
日本の医者よ、もっとまじめにやれ、は逆効果です。患者さんも声をかけるなら、「も少し適当におやんなさい」だとぼくは思います。
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