1990年代、ぼくがまだ研修医の頃、小児科の先生は喘息をどう治療するか、結構もめていました。大きく分けると、ステロイドで治療する派とテオフィリンで治療する派。上の先生がどちらの「派閥」に属しているかを知り、明日の担当がどの先生かを知っていないと、夜間救急外来で喘息治療ができません。「あ、明日はステロイド嫌いな先生が担当か。じゃ、テオフィリンで、、、」みたいな日和見が上手な研修医が、優秀な研修医です。ま、ぼくはそういう意味でも出来の悪い研修医だったな。
喘息は気管支(息の通り道)が狭くなる病気で、その気管支を広げるテオフィリンは理にかなった治療薬でした。ところが、20世紀後半になると、喘息は単に気管支が狭くなるだけでなく、そこに炎症(腫れたり熱が出たり)が起きていることがわかってきます。で、炎症を抑えるステロイドが治療薬として使われるわけです。でも、ステロイドも免疫抑制とか、いろいろ副作用も多くてそう簡単には使えません。喘息患者は子供が多いですから、成長抑制を起こすこともあるステロイドは、なおさら使いにくい。でも、副作用を言うのならば、テオフィリンも副作用が問題(テオフィリン中毒)。さて、どうしよう。というのがぼくが研修医時代の「空気」でした(喘息には他にも治療薬がありますが、それについては次回に)。
で、時代は流れて喘息のステロイド治療のほうがよさそうだ、ということでこちらのほうがだんだん定着してきました。とくに、吸入ステロイド療法は、ステロイドが全身に回りにくいこともあり、副作用の問題も比較的少ないです。吸入ステロイド療法の定着にともない、かつて、あんなに多かった喘息発作、救急センター受診、も激減しました。喘息死ゼロは、達成が期待できる目標になっています(http://www.mhlw.go.jp/new-info/kobetu/kenkou/ryumachi/dl/jititai05.pdf)。
ステロイドは副作用が多くて、あんな危ない薬を使うのはダメ医者だ、という主張を耳にすることがあります(そして民間療法をオススメ)。でも、ここでもステロイド「そのもの」に善悪はありません。副作用があることすら問題の根本ではありません。あくまでも、そのステロイドが「どういう患者」に使われ、「何をもたらすのか」が肝心です。すくなくとも喘息患者さんの多くは、吸入ステロイドの多大な恩恵を受けてきたのです。ステロイド、というだけで毛嫌いしてはいけません。
ところで、子供の病気とされてきた喘息ですが、最近では大人でも発症することが指摘されています(http://www.allergy.go.jp/allergy/guideline/02/contents_01.html)。とくに、咳だけが症状になっている喘息(咳喘息)は見逃しやすいので要注意です。そういう患者さんに抗生物質が延々と入っていることもあります。あきまへんな。
逆に、高齢者で、「喘息」と言われている患者さんで、実は喘息じゃなかった、というケースもときどき見ます。ぜいぜい言っているので喘息かな、と思うわけですが、70代とか80代の方が生まれて初めてぜいぜい、の場合はむしろ心不全のことが多いです。心臓の病気でもぜいぜいするんですよ。喘息は検査によって診断できますから、きちんと診断してから治療することが大事です。
そういう(実は喘息ではなくて心不全の)患者さんにテオフィリン(かその親戚)が入っていて、テオフィリン中毒になって、、というと、もうなにやってんだかわかりません。テオフィリン中毒は軽症だと吐き気、腹痛、下痢、手が震えるなどで、重症になるとけいれんを起こしたりします。(テオフィリン中毒については、抜群に優れた「呼吸器内科医」ブログに詳細があります。http://pulmonary.exblog.jp/9638583/)。もっと悲惨なケースだと、心不全「も」あるとかいって、ジギタリスまで加えられている患者さんも見たことがあります。ジギタリスも中毒を起こしやすいんです(この話は、また別の機会に)。
年配の先生と話をしていると、「喘息?それってテオフィリンで治療するんじゃないの」と未だに言われることがあります。医学は変化し続けるのですが、自分の専門領域以外の変化には、気がつきにくいのですね。
とはいえ!
じゃ、テオフィリンが全く役立たずかというと、そうとも限りません。確かに、昔に比べれば利用価値は激減しましたが、治療のオプションそのものから消え去ったわけではないのです。ガイドライン上は、喘息の症状が続いているとき、一番の薬は吸入ステロイドですよ、となっています。でも、そのかわりとして、4番手くらいにテオフィリンの名前は残っています(Guidelines for the Diagnosis and Management of Asthma. NIH Publication no. 08-4051, 2007, Respir Med. 2003;97(12):1313)。
まあ、ぼく自身はテオフィリンを処方することは皆無です。基本的な治療(吸入ステロイドなど)が使えないような特殊な患者さんは、呼吸器内科専門医に診てもらったほうがよいと思うからです。というわけで、テオフィリンは、その毒性について十分な知識を持ち、吸入ステロイドの優位性も分かった上で、「あえて」そうせざるをえない特殊な患者さんに対して、特殊な技量と経験を持つ専門家が使うべき薬だと思います。そして、皮肉なことに、そういう専門家はテオフィリン、ほとんど使わないんです。明らかな理由のために。
喘息は気管支(息の通り道)が狭くなる病気で、その気管支を広げるテオフィリンは理にかなった治療薬でした。ところが、20世紀後半になると、喘息は単に気管支が狭くなるだけでなく、そこに炎症(腫れたり熱が出たり)が起きていることがわかってきます。で、炎症を抑えるステロイドが治療薬として使われるわけです。でも、ステロイドも免疫抑制とか、いろいろ副作用も多くてそう簡単には使えません。喘息患者は子供が多いですから、成長抑制を起こすこともあるステロイドは、なおさら使いにくい。でも、副作用を言うのならば、テオフィリンも副作用が問題(テオフィリン中毒)。さて、どうしよう。というのがぼくが研修医時代の「空気」でした(喘息には他にも治療薬がありますが、それについては次回に)。
で、時代は流れて喘息のステロイド治療のほうがよさそうだ、ということでこちらのほうがだんだん定着してきました。とくに、吸入ステロイド療法は、ステロイドが全身に回りにくいこともあり、副作用の問題も比較的少ないです。吸入ステロイド療法の定着にともない、かつて、あんなに多かった喘息発作、救急センター受診、も激減しました。喘息死ゼロは、達成が期待できる目標になっています(http://www.mhlw.go.jp/new-info/kobetu/kenkou/ryumachi/dl/jititai05.pdf)。
ステロイドは副作用が多くて、あんな危ない薬を使うのはダメ医者だ、という主張を耳にすることがあります(そして民間療法をオススメ)。でも、ここでもステロイド「そのもの」に善悪はありません。副作用があることすら問題の根本ではありません。あくまでも、そのステロイドが「どういう患者」に使われ、「何をもたらすのか」が肝心です。すくなくとも喘息患者さんの多くは、吸入ステロイドの多大な恩恵を受けてきたのです。ステロイド、というだけで毛嫌いしてはいけません。
ところで、子供の病気とされてきた喘息ですが、最近では大人でも発症することが指摘されています(http://www.allergy.go.jp/allergy/guideline/02/contents_01.html)。とくに、咳だけが症状になっている喘息(咳喘息)は見逃しやすいので要注意です。そういう患者さんに抗生物質が延々と入っていることもあります。あきまへんな。
逆に、高齢者で、「喘息」と言われている患者さんで、実は喘息じゃなかった、というケースもときどき見ます。ぜいぜい言っているので喘息かな、と思うわけですが、70代とか80代の方が生まれて初めてぜいぜい、の場合はむしろ心不全のことが多いです。心臓の病気でもぜいぜいするんですよ。喘息は検査によって診断できますから、きちんと診断してから治療することが大事です。
そういう(実は喘息ではなくて心不全の)患者さんにテオフィリン(かその親戚)が入っていて、テオフィリン中毒になって、、というと、もうなにやってんだかわかりません。テオフィリン中毒は軽症だと吐き気、腹痛、下痢、手が震えるなどで、重症になるとけいれんを起こしたりします。(テオフィリン中毒については、抜群に優れた「呼吸器内科医」ブログに詳細があります。http://pulmonary.exblog.jp/9638583/)。もっと悲惨なケースだと、心不全「も」あるとかいって、ジギタリスまで加えられている患者さんも見たことがあります。ジギタリスも中毒を起こしやすいんです(この話は、また別の機会に)。
年配の先生と話をしていると、「喘息?それってテオフィリンで治療するんじゃないの」と未だに言われることがあります。医学は変化し続けるのですが、自分の専門領域以外の変化には、気がつきにくいのですね。
とはいえ!
じゃ、テオフィリンが全く役立たずかというと、そうとも限りません。確かに、昔に比べれば利用価値は激減しましたが、治療のオプションそのものから消え去ったわけではないのです。ガイドライン上は、喘息の症状が続いているとき、一番の薬は吸入ステロイドですよ、となっています。でも、そのかわりとして、4番手くらいにテオフィリンの名前は残っています(Guidelines for the Diagnosis and Management of Asthma. NIH Publication no. 08-4051, 2007, Respir Med. 2003;97(12):1313)。
まあ、ぼく自身はテオフィリンを処方することは皆無です。基本的な治療(吸入ステロイドなど)が使えないような特殊な患者さんは、呼吸器内科専門医に診てもらったほうがよいと思うからです。というわけで、テオフィリンは、その毒性について十分な知識を持ち、吸入ステロイドの優位性も分かった上で、「あえて」そうせざるをえない特殊な患者さんに対して、特殊な技量と経験を持つ専門家が使うべき薬だと思います。そして、皮肉なことに、そういう専門家はテオフィリン、ほとんど使わないんです。明らかな理由のために。
コメント
コメントフィードを購読すればディスカッションを追いかけることができます。