糖尿病は血管をボロボロにします。足の血行が悪くなると、足が腐ったり、最悪切り落とさねばならなくなることすら、あります。また、そこから神経の病気が起きて足がとても痛くなることがあります。足を痛がる糖尿病患者さんは、本当につらそうです。
で、この痛みに対しては、けいれんの薬とかうつ病の薬を応用させて治療することが多いです。もちろん、糖尿病そのものの治療も大事ですが。
ところが、ぼくがアメリカから日本に帰ってきたとき、使ったことのない薬を多くの医者が処方しているので驚きました。何この薬?
それは、末梢循環改善薬。プロスタグランジンという物質に似た薬で、血管を広げたり、血小板という血を固める物質の効果を弱めたりして、「血流を良くする」んだそうです。
理屈はいいでしょう。でも、それって本当に効くの?
日本で出されている末梢循環改善薬はオパルモン(小野薬品)などです。
PubMedという医学論文のデータベースで、この薬が糖尿病にどのくらい効くのか、「エビデンス」を調べてみました。
オパルモン(limaprost)で、見つかった、関係有りそうな論文はひとつ。ところが、これは症例報告でして、腎臓のもともと悪い糖尿病患者に使うと、むしろ腎臓はさらに悪くなったよ、というものでした(Diabetes Res Clin Pract. 1992 Jun;16(3):233-8.)。
ええーっ!こんだけしか臨床データないの?じゃ、なんでこの薬承認されたのよ、、、とびっくりしたぼくは、独立行政法人医薬品医療機器総合機構(PMDA)の評価文書を読んでみました(http://www.info.pmda.go.jp/go/pack/3399003F1073_1_09/)。すると、オパルモンらが血管閉塞に効果があるという判断根拠となった臨床試験が2つあることが分かりました。が!しかし!そのうち1つはメーカーの社内資料。そんなの採用基準に入っちゃうわけ?
で、もう一つの論文はネットで入手できないので図書館でゲット。チクロピジンという昔の抗血小板薬とのガチンコ比較試験でした(医学のあゆみ,138:217,1986)。全体に、チクロピジンとの臨床効果は引き分けで、例えば疼痛改善度は40% vs 41%、、うーん、ぱっとしないじゃないか。
ちなみに、このチクロピジン(パナルジン)は白血球や血小板といった血液細胞を減らしてしまう重要な副作用のため、現在医療現場で使うことはほとんどなくなりました。末梢循環不全に効果がある、という臨床試験も見つけることができませんでした。
というわけで、プロスタグランジン系の末梢循環改善薬って何を循環させているかというと、医療費を循環させているだけのようです。
それにしても、PMDAができたのが2001年。それまでは厚生省(現厚生労働省)が医薬品の審査を担当していました。80年代の元論文を読み返すと、その審査が実にズサンであったことが伺われますね。
ま、昔のことは仕方ありません。それよりも、そんな昔のズサンな臨床データを、今も引きずって現場で使っている方がずっと問題だと思います。
とはいえ!
じゃ、末梢循環改善薬がまったく無意味かというとそうではありません。
たとえば、整形外科領域の、脊髄(背中の神経)が狭くなる病気があります。これも足が痛くなるのですが、これにはlimaprostが効果があるという臨床試験があります(Spine. 2009 Jan 15;34(2):115-20.)。また、beraprostという別のプロスタグランジン類似体(ドルナーなど)では、最近糖尿病性ニューロパチーの痛みにも効くという臨床試験が出て来ました(Diabetes Obes Metab. 2013 Feb;15(2):185-8)。
というわけで、医薬品とは、「どの」薬を「何に」対して使うか、によってそれが効くとか効かないとかの評価が別れてきます。全肯定したり、全否定するのが危険なのもそのためです。
内海聡氏は、「医学不要論」(三五館)の中で、「認知症薬の多くはアセチルコリン阻害作用を持っている。(中略)サリンや有機リンと呼ばれる物質は猛毒として有名だが、これもアセチルコリン阻害物質であ る。(中略)基本的な機序が同じだと聞いた時に、一般の人は何を想像するか。(中略)おそらく事実を聞けば聞くほどに、それを飲みたいという人は減るだろ う」(原文ママ 49ページ)と述べました。このような、「アセチルコリン(エステラーゼ)阻害作用」というだけで、認知症薬とサリンを同列に扱ってしまうのがいかに危ない過剰な一般化か、ということはわかっていただきたいのです。
で、この痛みに対しては、けいれんの薬とかうつ病の薬を応用させて治療することが多いです。もちろん、糖尿病そのものの治療も大事ですが。
ところが、ぼくがアメリカから日本に帰ってきたとき、使ったことのない薬を多くの医者が処方しているので驚きました。何この薬?
それは、末梢循環改善薬。プロスタグランジンという物質に似た薬で、血管を広げたり、血小板という血を固める物質の効果を弱めたりして、「血流を良くする」んだそうです。
理屈はいいでしょう。でも、それって本当に効くの?
日本で出されている末梢循環改善薬はオパルモン(小野薬品)などです。
PubMedという医学論文のデータベースで、この薬が糖尿病にどのくらい効くのか、「エビデンス」を調べてみました。
オパルモン(limaprost)で、見つかった、関係有りそうな論文はひとつ。ところが、これは症例報告でして、腎臓のもともと悪い糖尿病患者に使うと、むしろ腎臓はさらに悪くなったよ、というものでした(Diabetes Res Clin Pract. 1992 Jun;16(3):233-8.)。
ええーっ!こんだけしか臨床データないの?じゃ、なんでこの薬承認されたのよ、、、とびっくりしたぼくは、独立行政法人医薬品医療機器総合機構(PMDA)の評価文書を読んでみました(http://www.info.pmda.go.jp/go/pack/3399003F1073_1_09/)。すると、オパルモンらが血管閉塞に効果があるという判断根拠となった臨床試験が2つあることが分かりました。が!しかし!そのうち1つはメーカーの社内資料。そんなの採用基準に入っちゃうわけ?
で、もう一つの論文はネットで入手できないので図書館でゲット。チクロピジンという昔の抗血小板薬とのガチンコ比較試験でした(医学のあゆみ,138:217,1986)。全体に、チクロピジンとの臨床効果は引き分けで、例えば疼痛改善度は40% vs 41%、、うーん、ぱっとしないじゃないか。
ちなみに、このチクロピジン(パナルジン)は白血球や血小板といった血液細胞を減らしてしまう重要な副作用のため、現在医療現場で使うことはほとんどなくなりました。末梢循環不全に効果がある、という臨床試験も見つけることができませんでした。
というわけで、プロスタグランジン系の末梢循環改善薬って何を循環させているかというと、医療費を循環させているだけのようです。
それにしても、PMDAができたのが2001年。それまでは厚生省(現厚生労働省)が医薬品の審査を担当していました。80年代の元論文を読み返すと、その審査が実にズサンであったことが伺われますね。
ま、昔のことは仕方ありません。それよりも、そんな昔のズサンな臨床データを、今も引きずって現場で使っている方がずっと問題だと思います。
とはいえ!
じゃ、末梢循環改善薬がまったく無意味かというとそうではありません。
たとえば、整形外科領域の、脊髄(背中の神経)が狭くなる病気があります。これも足が痛くなるのですが、これにはlimaprostが効果があるという臨床試験があります(Spine. 2009 Jan 15;34(2):115-20.)。また、beraprostという別のプロスタグランジン類似体(ドルナーなど)では、最近糖尿病性ニューロパチーの痛みにも効くという臨床試験が出て来ました(Diabetes Obes Metab. 2013 Feb;15(2):185-8)。
というわけで、医薬品とは、「どの」薬を「何に」対して使うか、によってそれが効くとか効かないとかの評価が別れてきます。全肯定したり、全否定するのが危険なのもそのためです。
内海聡氏は、「医学不要論」(三五館)の中で、「認知症薬の多くはアセチルコリン阻害作用を持っている。(中略)サリンや有機リンと呼ばれる物質は猛毒として有名だが、これもアセチルコリン阻害物質であ る。(中略)基本的な機序が同じだと聞いた時に、一般の人は何を想像するか。(中略)おそらく事実を聞けば聞くほどに、それを飲みたいという人は減るだろ う」(原文ママ 49ページ)と述べました。このような、「アセチルコリン(エステラーゼ)阻害作用」というだけで、認知症薬とサリンを同列に扱ってしまうのがいかに危ない過剰な一般化か、ということはわかっていただきたいのです。
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