ライム病について
●定義
ライム病(ライム病ボレリア)は、スピロヘータのBorrelia burgdorferiによって引き起こされる昆虫媒介性の感染症である。人獣共通感染症であり、感染症法における四類感染症に分類されている。B.burgdorferiはBorrelia種の中では最も細長く、長さは20~30μm、幅は0.2~0.3μmであり、アメリカではB. burgdorferi(狭義)、 ヨーロッパや日本を含むアジアではB. afzelii やB. garinii が報告されている。
●疫学
夏から初秋にかけて、樹木の多い地域に発生することが多い。ノネズミやシカ、野鳥などを保菌動物として、Ixodes群のマダニを媒介として感染する。アジアではシュルツェマダニ(Ixodes persulcatus)が主な媒介とされている。米国では最もよく見られる昆虫媒介性感染症であり、2001年から2010年までで合計241,587の症例が報告されている。ヨーロッパではドイツ、オーストリア、スロベニアおよびスウェーデンで多く、日本では2006年4月~2010年12月までに報告された患者は海外感染を含め49例で、北海道が19例、長野県が5例、神奈川、新潟、岐阜、福岡で2例報告されている。これは日本で媒介と言われているシュルツェマダニの生息と一致する部分が多いが、その生息地以外での報告もまれに見られているため、別の媒介者が存在する可能性もある。
●診断
診断は臨床症状、流行地でのダニへの暴露の可能性といった病歴に基づいて、それに血清学的検査を組み合わせて行うことが大切である。臨床症状は、以下の3つの病期に分けることが出来る。
① 初期限局感染(第1期):ライム病に特徴的な遊走性紅斑が約80%の患者で見られ、マダニ刺咬部から紅斑性丘疹で始まり周囲に拡大、1ヶ月ほどで端が鮮紅色で平らな辺縁となる。米国のデータでは易疲労感(54%)、発熱と悪寒(39%)、関節痛(44%)、筋肉痛(44%)などの全身症状を約68%で伴う。北海道の症例報告では発熱(26%)、全身倦怠感(9.7%)、関節痛(19%)と、日本は欧米に比べて全身症状にやや乏しいと考察される。
② 播種初期(第2期):小輪状の病変と感冒様症状を伴い、播種が起こる。しばしば中枢神経系に波及して増悪緩解を繰り返す頭痛を起こし、顔面神経麻痺がみられることもある。心血管系に浸潤してA-V blockなどの伝導障害を引き起こす。また、米国では37%程度で肝機能検査に異常がみられたとの報告もあるが、日本では肝機能異常の報告はない。
③ 晩期(第3期):第1期から数ヶ月~数年後に出現する。筋骨格系の症状、中枢神経系の症状、慢性萎縮性の皮膚炎を引き起こしうる。6ヶ月を超えるとライム後症候群と称されることもあり、線維筋通症と鑑別が困難な疼痛と全身倦怠感が特徴的な臨床症状を主に多彩な症状を呈し、診断が難しくなることもある。
●治療
初期の治療にはアモキシシリン、セフロキシムまたはドキシサイクリンの14~21日間の経口投与が効果的である。ただし、初期のライム病患者の15%でJarisch-Herxheimer reactionを引き起こすので注意が必要となる。顔面神経の単独障害、複数の遊走性紅斑、または1度房室ブロックを伴う心筋炎を合併している播種初期のものではドキシサイクリン(経口)またはセフトリアキソン(筋注)の投与が有効である。髄膜炎、または高度の房室ブロックを伴う心筋炎の場合は、セフトリアキソン(静注)か高用量のペニシリンが推奨される。
●予防
まずはダニに噛まれないことが予防となる。木の茂みや背の高い草の場所を歩く際には長ズボンや長袖のシャツを着ることでダニが付着する危険性を減らすことが出来る。付着後8~12時間未満なら伝播の可能性が低いため、流行地では体にダニがいないかチェックすることが必要となる。
●参考文献
1) Up To Date: ”Epidemiology of Lyme disease” 2) Up To Date : ” Clinical manifestations of Lyme disease in adults”
3) Up To Date : ” Treatment of Lyme disease”
4)感染症診療スタンダードマニュアル第2版(編集/Frederick S. Southwick、監修/青木 眞,喜舎場朝和) 5)http://www.nih.go.jp/niid/ja/lyme-m/lyme-iasrtpc.html(IASR(No.378) Vol.32 No.8 August 2011)
6)感染症学雑誌 第87巻1号p44-48
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