血液培養陰性の感染性心内膜炎について
感染性心内膜炎(Infective endocarditis, IE)の血液培養は、抗菌薬の投与を行わずに24時間以内に少なくとも1時間の間隔をあけて、異なる静脈穿刺部位から3セット採取する。血液培養陰性のIEは、培養してから7日経過しても陰性であった場合と定義される。
IE患者の5~15%で血液培養は陰性となり、その原因としては大きく①培養前の抗菌薬投与、②培養困難な微生物による感染、の二つが挙げられる。
一つ目に挙げた培養前の抗菌薬投与は、血液培養陰性となる最多原因である。通常IE血液培養で95 %が陽性になるのが、抗菌薬投与により35~40 % に低下する。IE患者の5~15%では血液培養が陰性となり、そのうち3分の1から2分の1では培養前に投与された抗菌薬のために培養が陰性となる。さらに、IEと診断され培養陰性であった患者のうち、48%の患者に培養前の抗菌薬投与が行われていたという研究もある。また、培養前に抗菌薬投与を行っていないIE患者では、血液培養陰性は2~7%である。
次に挙げた原因である培養困難な微生物による感染は、抗菌薬の先行投与がなかったときの最多原因である。この微生物のうち代表的なものは、HACEKとよばれる口腔内・上咽頭のグラム陰性桿菌(Haemophilus aphrophilus, Actinobacillus actinomycetemcomitans, Cardiobacterium hominis, Eikenella corrodens, Kingella kingae)や、以前は栄養要求性連鎖球菌と分類されていたAbiotrophia defectivaやGranulicatella spp. が挙げられ、他には、地理的特徴もあり人獣共通感染症を引き起こすC.burnetiiやBartonella、Brucellaも挙げられる。今まで培養困難な微生物としてHACEK群が主に考えられてきていたが、近年では、血液培養自動分析装置によりHACEK群を5日以内に容易に培養できるようになった。
血液培養陰性のIEに対する治療では、病因に対する臨床的手がかりや疫学的手がかりを考慮する必要がある。具体的には、抗菌薬の投与の有無、経過は急性か亜急性か、人工弁置換術の既往があるか、市中感染か医療関連感染か、動物との接触がなかったか、注射薬物乱用はないか、などに注意する必要があり、これらから考えられる原因微生物の頻度も異なってくる。抗菌薬が先行していない場合、上で挙げたような培養困難な細菌を狙った治療を行うが、先行投与した抗菌薬が培養陰性の結果に影響を及ぼしている可能性がある場合は、自然弁の急性・自然弁の亜急性・人工弁の3つ場合に分け、それぞれに応じて経験的治療が必要である。
<参考文献>
ハリソン内科学 第4版 p921~927
レジデントのための感染症診療マニュアル第2版 青木眞・著 医学書院 p585~628
UpToDate “ Culture-negative endocarditis” last updated: 2 17, 2012 (2013/5/7アクセス)
Clin Infect Dis. 1995 Mar;20(3):501-6. Infective endocarditis in patients with negative blood cultures: analysis of 88 cases from a one-year nationwide survey in France. Hoen B, Selton-Suty C, Lacassin F, Etienne J, Briançon S, Leport C, Canton P.
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