著者献本御礼です。
嫉妬心は人間の感情の中でも最も醜く、また最も御しがたいものである。物事が円滑に進まないのも、人間に理不尽なこの嫉妬心という強い感情があるためであり、ねっとりと我々の足を引っ張るのである。
で、ぼくは香坂先生にカケラほどの嫉妬心も持たない。本書がいかにベストセラーで(これ書いているとき、アマゾンで235位)、内容がデータの量と分析の質において極めて優れていて、文章が分かりやすくてジョークもスパイスも効いていて、極めて教育的な良書であるにも関わらず、だ。
世の中には「うーん、この人には逆立ちしても歯がたたん。すごいですねえ」とすぐに白旗を上げたくなるような人がときどきいる。香坂先生はそういう突き抜けてしまった人物の1人である。ぼくは世界中のいろいろなドクターに会ってきたけど、香坂先生みたいな意味で優れたドクターはちょっと思い出せない。
香坂先生の素晴らしいところは、物事の本質、根っこをしっかり掴み取る、その把握力にあると思う。多くの小粒な秀才は瑣末なデータの暗記に汲々とし、そのデータの多寡を競い合うのだが(そして負けると嫉妬し、悔しがるのだが)、香坂先生のようにど真ん中をエグるような迫力ある脳みそは持ち合わせていないのである。
VT, VF, asystoleへの流れ、「p派が拡張障害の指標となるわけ」、「査読制度というサディスティックなシステム(ほんとだね)」、などどんどんえぐっていきます。本書でirregularly irregularの訳が絶対的不整というのを学びました(そのとおりですね)。Q派の意味も学びました。左脚の解剖なんか考えたことなかったな。
低リスクの症状のない患者に、運動負荷試験を行うべからず
低リスクの症状がない患者に、心電図やその他の循環器系のスクリーニングを行うべからず
「スパズムなど存在しませんよ」!!!
安定狭心症で内科治療をきちんとやったら、PCIをやっても予後改善しない!!!!
こういうのを論理的に説明できるところがすごいです。とくにスパスムについては、日本ではこうだ、アメリカではこうなってる、をアウフヘーベンしてもう一つ高いレベルの議論がされているのが流石です。
脚ブロック時のST上昇の見方、coved のブルガダ、デカルトの曲線(知らんかった)、コンピューターが心電図を読む「意味」、、、うーん、お腹いっぱい。
いやいや、香坂先生相変わらずキレキレですね。
コメント
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