注意! これは神戸大学病院医学部5年生が提出した感染症内科臨床実習時の課題レポートです。内容は教員が吟味し、医学生レベルで合格の域に達した段階 で、本人に許可を得て署名を外してブログに掲載しています。内容の妥当性については教員が責任を有していますが、学生の私見やロジックについてはできるだ け寛容でありたいとの思いから、(我々には若干異論があったとしても)あえて彼らの見解を尊重した部分もあります。あくまでもレポートという目的のために 作ったものですから、臨床現場への「そのまま」の応用は厳に慎んでください。また、本ブログをお読みの方が患者・患者関係者の場合は、本内容の利用の際に は必ず主治医に相談してください。ご不明な点がありましたらブログ管理人までお問い合わせください。kiwataアットmed.kobe-u.ac.jp まで
Campylobacter fetusについて
Campylobacterは, 運動性をもつ無芽胞性の弯曲したグラム陰性桿菌である. ヒトに病原性を有する菌種は, 大きく2つのグループに分けられる. 1つは腸管内感染を起こす菌である. 代表的な下痢原因菌であるC. jejuniはCampylobacterによる疾患の80~90%を占める. もう1つは腸管外感染を起こす菌であり, 代表的な菌はC. fetusである. 以下では, 一般的に免疫不全患者や基礎疾患をもつ患者に対し, 最も高頻度に全身感染性カンピロバクター感染症を引き起こすC. fetusについて述べる.
疫学 C. fetusに限らずCampylobacterは多くの場合, 生あるいは不十分な加熱調理の動物性食品の摂取(30~70%), あるいは感染しているペット類との接触などの経路で感染する. C. fetusによる全身感染症は, 易感染性患者にみられることが多い.その要因として, 肝疾患(特にアルコール性肝硬変), 悪性腫瘍, 白血病, 糖尿病, AIDSなどの免疫不全疾患がある.
病原性 C. fetusが腸管外感染を起こす理由は, その病原性から説明される. C. fetusは蛋白性の莢膜様構造(surface layer)をもち, そのため補体依存性の殺菌あるいはオプソニン化作用に対する抵抗性を有し, 菌血症を起こしたり腸管外に病巣を形成できる. またsurface layerの蛋白(surface layer protein, SLP)発現の表現型を高頻度に変化させ, 多様な抗原形式をもつことは, 易感染性宿主での感染の慢性化を引き起こし, また抗菌治療後に再発する要因となる.
臨床症状 C. fetusはC. jejuniと比較して健常人に下痢を起こすことはまれであるが, 間欠的な下痢や非特異的で局所徴候のない腹痛の原因となることもある. 易感染性患者では, はっきりとした初期症状は示さず遷延する再発性の全身症状(発熱, 悪寒, 筋肉痛など)を呈し, 局所的な所見を認めず, 血液培養によってC. fetusが分離され判明することも多い(cephalothin添加培地や42oCでの培養では分離が困難であり, 25-37oCで培養する必要があるなどの注意を要する). C. fetusは血管内組織に親和性をもち, 細菌性動脈瘤, 心内膜炎, 菌血症性血栓性静脈炎などを併発することがある.また二次的に病巣を形成し, 脳髄膜炎(中枢神経感染では最も高頻度), 脳膿瘍, 脊椎骨髄炎, 蜂窩織炎, 胆嚢炎, 心筋炎などの局所感染症状より発見されることもある.
治療 健常人が罹患したC. fetusによる胃腸炎に対しては, 通常抗菌薬を投与する必要はなく, 続発症はまれで経過は良好である. しかし, 免疫不全患者や菌血症, 他に腸内感染のある患者では, 一般的に長期の抗菌療法が必要となり, 再発もみられる. C. fetusによる血管内感染がある場合は, 少なくとも4週間の治療が必要であり, 一般的にampicillin, 第3世代セフェム, gentamicin, imipenem, meropenemの感受性が高い.中枢神経感染では移行性の問題から一般的にampicillin, cefotaxime, imipenem, chloramphenicolの投与が効果的であり, 2~3週間の治療が必要となる.
予防‐担当症例を通して‐ 患者個人情報なので割愛
最後に C. fetusがsurface layer, SLPを有することは, C. jejuni, C. coliなど多くのCampylobacterがそれを有さないことを考えても, C. fetusが腸管外感染を引き起こす主要な要因であると考えられる. C. fetusがその多様な抗原様式により免疫機構からエスケープしていることは興味深く, それを理解することでsurface layer, SLPを有する他の細菌の引き起こす病態の理解や, 免疫学的側面からの新たな治療につながるのではないかと感じた.
《参考文献》
1) Infection with less common Campylobacter species and related bacteria (Up To Date 2010/10/1), 2) Eur J Clin Microbiol Infect Dis (2008) 27:185–189 DOI 10.1007/s10096-007-0415-0 Campylobacter fetus bloodstream infection: risk factors and clinical features, 3) Mandell, Douglas, and Bennett's Principles and Practice of Infectious Diseases 7th Edition 4) Harrison's Principles of Internal Medicine, 18th Edition
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