注意! これは神戸大学病院医学部5年生が提出した感染症内科臨床実習時の課題レポートです。内容は教員が吟味し、医学生レベルで合格の域に達した段階 で、本人に許可を得て署名を外してブログに掲載しています。内容の妥当性については教員が責任を有していますが、学生の私見やロジックについてはできるだ け寛容でありたいとの思いから、(我々には若干異論があったとしても)あえて彼らの見解を尊重した部分もあります。あくまでもレポートという目的のために 作ったものですから、臨床現場への「そのまま」の応用は厳に慎んでください。また、本ブログをお読みの方が患者・患者関係者の場合は、本内容の利用の際に は必ず主治医に相談してください。ご不明な点がありましたらブログ管理人までお問い合わせください。kiwataアットmed.kobe-u.ac.jp まで
Red eyeの鑑別について
ここではred eyeを、充血や出血によって「白目」が赤くなる疾患と考え、以下に病変部位別にまとめた。
まず充血であるが、眼球の解剖学的な部分から分類していくと、結膜充血、毛様充血、上強膜・強膜充血にわけられる。これらは、結膜に合わせて動くものを結膜充血、動かないものを毛様充血、上強膜・強膜充血として鑑別できる。また、結膜充血は一般に円蓋側に強く、毛様充血では角膜輪部に強い傾向がある。色調も、前者は鮮紅色、後者は暗紫色である。これらを感染症と非感染症で分類すると以下の表のとおりとなる。
|
感染症によるもの |
感染症でないもの |
結膜充血 |
細菌性結膜炎、ウイルス性結膜炎 |
アレルギー性結膜炎 |
毛様充血 |
細菌性角膜炎、ウイルス性角膜炎、アカントアメーバ角膜炎、角膜真菌症 |
急性前部ぶどう膜炎、急性うっ血性閉塞隅角緑内障 |
上強膜充血・強膜充血 |
緑膿菌、黄色ブドウ球菌、VZVなどによる強膜炎 |
単純性上強膜炎、びまん性強膜炎、炎症性前部壊死性強膜炎、全身疾患による強膜炎 |
感染性結膜炎は接触により感染するが、殆どがウイルス性である。ウイルス性結膜炎の症状としては、水様粘液性眼脂、結膜濾胞、リンパ節腫脹に加え、咳や鼻水などの風邪様症状も見られる。最も頻度の高いものとしてはアデノウイルスがあり、咽頭結膜炎や流行性角結膜炎を起こす。細菌性結膜炎は大人よりも子供で見られることが多く、両眼で膿性の眼脂の症状を呈す。非感染性結膜炎の中で一般的であるのがアレルギー性結膜炎である。典型的な症状としては両眼の掻痒感、水様性の眼脂、眼瞼結膜の乳頭状増殖がみられる。中でも掻痒感はアレルギー性結膜炎の主要な症状であり、ウイルス性結膜炎と鑑別することができる。その他の原因としてはドライアイがあり、これには感染性結膜炎にみられるような症状は無い。抗ヒスタミン薬、抗コリン薬などの薬剤、シェーグレン症候群などはドライアイの原因となることがある。また眼に異物が混入した場合も充血を起こす。
角膜炎には、細菌性、ウイルス性、真菌性、アメーバ性などがあり、重症化して角膜潰瘍となることがある。鑑別のためにはコンタクトレンズの使用などを含めた問診と、眼の診察が必要である。
ぶどう膜炎では、虹彩と毛様体を主とする前部ぶどう膜炎が重要である。視力低下や疼痛、羞明とともに、毛様充血がみられる。原因疾患としては、強直性脊椎炎(片眼性が多い)やReiter症候群、急性発症のサルコイドーシス、炎症性腸疾患、Behcet病(両眼同時発生が多い)などがある。
急性うっ血性閉塞隅角緑内障は、充血に眼周囲の痛み、嘔気などを急激に生じる救急疾患である。
上強膜・強膜に充血をきたす疾患には、扇形病変で自然消褪する単純性上強膜炎、血管が放射状に蛇行するびまん性強膜炎、眼科手術後の強膜炎、マイトマイシンCによる強膜炎、微生物による強膜炎などがある。原因微生物としては、緑膿菌、肺炎球菌、黄色ブドウ球菌、水痘帯状疱疹ウイルスなどがある。また、全身疾患として関節リウマチ、Wegener肉芽種症、結節性多発動脈炎などが強膜炎を生じうる。炎症性前部壊死性強膜炎は、主に両眼性の持続する激しい痛みと発赤を特徴とする。
次に出血であるが、結膜下出血と、外傷による眼球の裂傷がある。前者は、肺炎球菌やH. aegypticusなどの細菌や、エンテロウイルスなどウイルス感染によって生じる。外傷では、結膜や強膜の裂傷などが原因となりうる。なお結膜下出血の場合、自然に吸収されることが多いため、保存的に治療する。
なお、red eyeの患者さんのうち、急性うっ血性閉塞隅角緑内障の発作、視野欠損や激しい眼痛を伴う場合、角膜潰瘍がある場合、前房蓄膿がある場合などについては、すぐに眼科医に相談するべきであるとされている。
【参考文献】
・Jack J Kanski: Clinical OPHTHALMOLOGY A Systematic Approach 5th edition ・日本眼科学会ウイルス性結膜炎ガイドライン
・HARRISON’S principles of INTERNAL MEDICINE 18th edition
・Up To Date: Evaluation of the red eye, Conjunctivitis
コメント
コメントフィードを購読すればディスカッションを追いかけることができます。