ICUは「なんとなく」「いつもやっているから」「みんながやっているから」「医局の方針だから」という雑な診療の温床になりやすい。日本ではクリティカルケアのプロにICU患者をまかせず、主治医がそのままICUケアを継続することが多いからだ。
むろん、自分の専門領域においては各医師はプロ中のプロである。脳外科医は脳病変を摘出するエキスパートで、循環器内科医は心カテのエキスパートで、消化器内科医は内視鏡のエキスパートであり、各領域についてその知識、技術は他の追随を許さない。
しかし、ICUケアは「その専門領域、専門分野、専門臓器のみ」診るということが許されない。重症患者特有の横断的なアプローチが必要になる。適切な感染症予防や治療、栄養の提供、水の管理、疼痛管理などが必要になる。人工呼吸管理もそのひとつだ。ところが、各専門医はそれぞれについて十分な訓練や勉強をする時間はない。よってついついやっつけ仕事、「とりあえず」の仕事になる。人工呼吸器がついている患者で、変な設定してるなあ、とか、「なんでこの患者さんまだ抜管されないんだろ」と疑問に思うことは少なくない。
本来であればICU専門家に患者ケアを完全に委託するか、呼吸器ケアチームを作ってチーム医療を行い、呼吸器設定を委託するのが妥当なのだが、このような習慣のない日本では、しばしば「なんとなく」人工呼吸管理に流れがちである。
専門領域は深く深く追求して勉強していく。しかし、横断的領域についてはカッティングエッジな先端知識を追求し、深い知識や技術をつけるのは困難だ。僕にとっては頭痛、不整脈、精神科疾患などがそういう「深い知識や技術をつけにくい」領域になる。こういうところはできるだけ短い時間で楽しく要諦を学ぶのが効率的だ。
というわけで、人工呼吸管理のDVDがケアネットから出た。古川力丸先生が作ったこのDVD、実によくできている。感心してしまった。
通常、人工呼吸器の勉強となるとまず「換気モード」が問題になり、換気モードで挫折する。しかし、このDVDでは換気モードはあとまわしにし、まずは人工呼吸管理の適応と抜管の条件から丁寧に説明する。人工呼吸管理の目的、いかに酸素化と換気、呼吸仕事量の改善するのかを明確にする。多くの場合、目的が不明確でなんとなく人工呼吸管理を行うから変なことになるのであり、PEEPとかFIO2設定で???なことが多くなるのだ。目的を明確にし、どのパラメターを観察し、患者の病態を判断して、それに対応する。臨床医学全てに通用する基本中の基本だが、わりと基本がなおざりにされてるんですよね。どこでも。
あと、プレゼンが秀逸だ。短いプログラムのあと選択問題で知識を確認、というのは人気DVDの山本先生の「かぜ」と同じだが、研修医との対話がテンポよく進められる。ぼくら素人が思いつきそうな疑問が研修医からだされ、これに適切な回答がなされる。間違いやすいエラーも研修医が代わりに間違ってくれる(笑)。日本でありがちなエラーはほとんど網羅されているのが素晴らしい。対話型はぼくの好みな勉強法だが、それがDVDで擬似的に行われる。非常に学びやすいフォーマットだ。力丸先生のちょっと力の抜けたテンポの良いトークも好感が持てる。
周囲に専門家がいないあなた、上の先生が教えてくれない研修医にはぜひみてもらいたいプログラムだ。研修医を教えているんだけど人工呼吸器の設定は「適当」「とりあえず」だった上級医の先生も、ぜひこっそり見てください。
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