注意! これは神戸大学病院医学部5年生が提出した感染症内科臨床実習時の課題レポートです。内容は教員が吟味し、医学生レベルで合格の域に達した段階で、本人に許可を得て署名を外してブログに掲載しています。内容の妥当性については教員が責任を有していますが、学生の私見やロジックについてはできるだけ寛容でありたいとの思いから、(我々には若干異論があったとしても)あえて彼らの見解を尊重した部分もあります。あくまでもレポートという目的のために作ったものですから、臨床現場への「そのまま」の応用は厳に慎んでください。また、本ブログをお読みの方が患者・患者関係者の場合は、本内容の利用の際には必ず主治医に相談してください。ご不明な点がありましたらブログ管理人までお問い合わせください。kiwataアットmed.kobe-u.ac.jpまで
BSL感染症内科レポート
レポート課題:伝染性軟属腫
【概要・疫学】
伝染性軟属腫はポックスウイルス科の伝染性軟属腫ウイルスによって特徴的な増殖性病変を起こす、ヒトだけに感染する疾患である。このウイルスは世界中でみられる。
感染経路としては、皮膚の接触感染とタオルや水泳用プールなどの媒介物を介したものがある。さらに、性交渉による接触で感染し、生殖器への感染もしばしば起こる。また、この疾患は保育園や学校に通う子供において、潜伏期間に接触することで感染が蔓延しかねないので注意が必要である。病変部位を覆ったり、病変に触れた手を清潔にしたりすることが、感染を防ぐ点で重要となる。2)
アトピーや皮膚に何らかの障害がある患者で感染のリスクが増大する。さらに、進行したHIV感染患者に伝染性軟属腫はしばしば発症し、HIV感染者では5~18%の有病率である。潜伏期間は2週間~6ヶ月、平均して2~7週間である。1)
【臨床症状】2)
伝染性軟属腫は特徴的な病変を起こす。まず小さな丘疹として発生し、成熟すれば肌色の滑らかな表面をしたドーム状で、しばしば中心に特徴的な臍状の陥凹を有した直径2~5mmの結節となる。病変はチーズ様の灰色~黄色がかった内容物で満たされている。通常1~20個の病変が発生するが、ときに数百個にのぼることもある。同時に複数の感染部位があったり、自家接種が起こるため、病変部位は引っ掻いた線に沿って融合して現れたり、隣り合って発生したりすることもある。皮膚において炎症と壊死はほとんど伴わない。
子供では、主に腹部や四肢近位でみられ、成人では腹部や恥部、大腿部にみられやすい。さらに、それぞれのケースで自家接種により病変部位から他の部位への伝播が起こる。また、HIV感染患者では、より全身に広がり、頻繁に顔面(眼病変を含めて)と上半身に生じる。個々の病変は2ヶ月程で消退するが、疾患自体は6~9ヶ月持続する。ただ、全身合併症はないが皮膚病変は3~5年間継続することがある。こういった重症で遷延する感染は、HIV感染患者を含めた細胞性免疫不全の患者で起こりやすい。
【診断】
伝染性軟属腫は特徴的な病変を有するため、診断は通常その臨床所見でなされる。しかし、免疫不全患者におけるクリプトコッカス症、ヒストプラズマ症、Penicillium marnefferi感染症で、類似した臍状の病変を認めることがあるので鑑別が必要となる。3)こういった疾患との鑑別のため、ポックスウイルスの複製の特徴である好酸性細胞内封入体や軟属腫体を組織学的に検出することで診断できる。また、伝染性軟属腫ウイルスはin vivoでは培養できないが、電子顕微鏡とPCR法も同定に用いることができる。1)
【治療】
伝染性軟属腫は通常自然治癒するが、顔面病変や多発病変に対する美容上の理由から治療法が探されてきた。冷凍凝固法や掻爬術、ポドフィロトキシンやカンタリジンの投与といったものが第一選択の治療法として有用とされている。ただし、これらの治療法に関して大規模臨床試験がなされていないので、治療効果に対する確実なエビデンスはないのが現状である。3)
また、シドフォビルはin vivoにおいて天然痘ウイルスや伝染性軟属腫ウイルスを含む多くのポックスウイルスに活性があり、症例報告ではシドフォビルが免疫抑制宿主の難治性伝染性軟属腫治療にある程度有効である可能性を示している。3)
AIDS患者においては、HAART(highly active antiretroviral therapy)の開始が伝染性軟属腫に有効であるという報告も多数あるが、逆にHAART開始後のIRIS(免疫再構築症候群)によって伝染性軟属腫の頻度が上昇するという報告もある。1),3)
【参考文献】
1) Anthony S.Fauci, Eugene Braunwald他著, 福井次矢 黒川清 日本語版監修(2009)『ハリソン内科学第3版』メディカルサイエンスインターナショナル, p.1169
2) Gerald L. Mandell MD MACP, John E. Bennett MD, Raphael Dolin MD(2009)『Mandell, Douglas, and Bennett's Principles and Practice of Infectious Diseases 7th』Churchill Livingstone, pp.1934-1935
3) Up To Date, Molluscum contagiosum; Topic 4033 Version 7.0 (2012年7月11日閲覧)
コメント
コメントフィードを購読すればディスカッションを追いかけることができます。