注意! これは神戸大学病院医学部5年生が提出した感染症内科臨床実習時の課題レポートです。内容は教員が吟味し、医学生レベルで合格の域に達した段階で、本人に許可を得て署名を外してブログに掲載しています。内容の妥当性については教員が責任を有していますが、学生の私見やロジックについてはできるだけ寛容でありたいとの思いから、(我々には若干異論があったとしても)あえて彼らの見解を尊重した部分もあります。あくまでもレポートという目的のために作ったものですから、臨床現場への「そのまま」の応用は厳に慎んでください。また、本ブログをお読みの方が患者・患者関係者の場合は、本内容の利用の際には必ず主治医に相談してください。ご不明な点がありましたらブログ管理人までお問い合わせください。kiwataアットmed.kobe-u.ac.jpまで
■ 身体障害者制度
1998年より、HIV感染者は内部障害の「免疫機能障害」として、一定の基準を満たせば1級~4級の等級で身体障害者手帳を取得可能となっている。手帳を所得した患者が申請可能な助成には以下が挙げられる。
1. 自立支援医療費 身体障害者手帳取得後、もしくは申請中で治療が始まる場合に利用できる。
2. 重度心身障害者医療費 自治体が定めた一定以上の等級を満たし、所得制限をクリアした場合に利用できる。
3. 障害年金 初診から一年半以上が経過し年金の納付要件と診断基準を満たせば申請可能。
HIV感染症の治療では、抗HIV薬3剤以上を併用した強力な多剤併用療法(ART)を行う。健康保険を適応した上でも、感染患者は初診で1~2万円、ART開始後は毎月6~7万円を自己負担することとなる。多くの患者が、身体障害者認定を受け、経済的に援助を受けることを必要としていることは明らかである。
■ 身体障害者制度利用の際の問題点
① プライバシーの問題 身体障害者手帳には「ヒト免疫不全ウィルスによる免疫の機能の障害」として記載されるが、各サービスを利用する際にはこの手帳の提示が必要となる。HIV感染者は視覚的に障害が理解されにくく、本人確認の際に手帳を提示して初めてHIV感染者という事実が暴露されることとなり、プライバシーの保護が難しい。HIV感染者の中には、診断後も周囲の人に感染について知られたくないという理由で、申請を躊躇する患者もいると考えられる。
② 4週間の経過観察 身体障害者手帳を申請する際に指定医が記入する身体障害者診断書・意見書の記入事項に“CD4陽性Tリンパ球”とあるが、この値も含めて4週間以上間隔をおいて実施した連続する2回の検査値を記載するように指示されている。しかしこの4週間の間にかかった医療費は、自立支援医療費や重度心身障害者医療費の適応対象とならない。また、HIV感染の診断と同時に日和見感染やHBV重複感染の有無を調べるなど多くの検査をする必要があるが、患者の負担を考慮すると、認定後まで延期される検査もある。これに加えて、治療によって認定の可否が左右する、という問題がある。例えばHBV感染があり、HBVに対する治療が必要な場合、CD4の値に関わらずに抗HIV療法を開始することが推奨されている。この場合の等級認定はウィルス量に依存するが、4週間の間にARTが奏効し、ウィルス量が減少すると、認定条件から外れることもある。つまり、2回の検査間で治療を開始することによって、患者は、助成対象とならない高額な医療費を支払い、治療しなければ得られるはずの援助を失うという2つの不利益を与えられる。また、そもそも重度心身障害者医療費の対象とならない患者が助成を受けたい場合には、病態が悪化するのを待つしかない。しかしARTはCD4の低下の程度が少ない間に開始することが推奨されている。これは患者にとって非常なジレンマであると考えられる。
【参考文献】
抗HIV/エイズ薬の考え方、使い方、そして飲み方
HIV感染症「治療の手引き」 第15版 HIV感染症治療研究会
「制度の手引き」HIV感染症の医療体制の整備に関する研究班
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