注意! これは神戸大学病院医学部5年生が提出した感染症内科臨床実習時の課題レポートです。内容は教員が吟味し、医学生レベルで合格の域に達した段階で、本人に許可を得て署名を外してブログに掲載しています。内容の妥当性については教員が責任を有していますが、学生の私見やロジックについてはできるだけ寛容でありたいとの思いから、(我々には若干異論があったとしても)あえて彼らの見解を尊重した部分もあります。あくまでもレポートという目的のために作ったものですから、臨床現場への「そのまま」の応用は厳に慎んでください。また、本ブログをお読みの方が患者・患者関係者の場合は、本内容の利用の際には必ず主治医に相談してください。ご不明な点がありましたらブログ管理人までお問い合わせください。kiwataアットmed.kobe-u.ac.jpまで
Compromised Hostにおける帯状疱疹の治療戦略
概要
神経節に潜伏感染しているVZVは、細胞性免疫機能が低下したときに再活性化し、帯状疱疹を起こすことがある。健常人でも一時的に免疫機能が低下している場合は帯状疱疹が出ることがある。しかし、より発症しやすいのがCompromised Host(免疫不全患者)である。免疫不全患者とは、ステロイド服用患者やHIV患者、血液疾患患者、固形癌患者、抗癌剤治療中の患者、臓器移植した患者などが該当する。免疫不全患者に帯状疱疹が発症した場合、疼痛に苦しむだけではなく生命予後が悪くなる可能性が高い。
治療目的
免疫正常患者に対する治療の目的は下記の通りである。
l 急性神経炎に伴う疼痛緩和、持続時間の軽減
l 皮膚病変の急速な治癒促進
l 新しい病変形成の予防
l ウイルス排出の減少により、伝染リスクを低減
l ヘルペス後神経痛(PHN)の予防
免疫不全患者の場合、上に挙げた治療目的以外に、播種性帯状疱疹への進展、及び肺や脳などの実質臓器への波及を防ぐことも重要な目的となる。治療によりこれらを防ぐことで、生命予後が改善される。以下、免疫不全患者の抗ウイルス治療について記載する。
治療戦略
帯状疱疹の治療は発症72時間以内に抗ウイルス薬を投与することが基本である。免疫不全患者の場合は、帯状疱疹を認識し次第、速やかに投与すべきである。播種性帯状疱疹や実質臓器波及をきたしている重症患者には静注、デルマトームに一致した帯状疱疹のみの軽症患者は経口投与するのが基本である(本レポートの軽症/重症の定義は便宜的なもの)。重症患者の場合も、播種を制御できたら経口投与に切り替える。ただし、投与期間を過ぎても治癒にいたらなければさらに投与を継続する。
抗ウイルス薬 |
経路 |
特徴 |
投与量 |
投与期間 |
アシクロビル |
静注 |
効果が高い、入院加療が必要 |
10 mg/kgを 8時間ごと |
7~10日間 |
アシクロビル |
経口 |
吸収が悪く、服薬遵守が難しい |
800mgを5回/1日 |
7日間 |
バラシクロビル |
経口 |
吸収が良い |
1000mgを3回/1日 |
7日間 |
ファムシクロビル |
経口 |
吸収が良い |
500mgを3回/1日 |
7日間 |
軽症患者の場合は経口投与で良いが、アシクロビルは上表のようにコンプライアンスが悪くなることが予想されるため、バラシクロビルもしくはファムシクロビルの投与を検討する。また、HIV患者ではアシクロビル耐性VZVが見られることがあり、その場合はバラシクロビルにもファムシクロビルにも耐性であることが多いため、フォスカーネットの静注かシドフォビルの局所投与も検討する必要がある。
参考文献
Ulrich Heininger, “Varicella”, THE LANCET Vol 368, 2006
Harrison’s principles of internal medicine 18th Edition Volume 1, “Antiviral Drugs”, p1445, p1448-p1450
Agency for Healthcare Research and Quality, “Recommendations for the management of herpes zoster”, 2007
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