注意! これは神戸大学病院医学部5年生が提出した感染症内科臨床実習時の課題レポートです。内容は教員が吟味し、医学生レベルで合格の域に達した段階で、本人に許可を得て署名を外してブログに掲載しています。内容の妥当性については教員が責任を有していますが、学生の私見やロジックについてはできるだけ寛容でありたいとの思いから、(我々には若干異論があったとしても)あえて彼らの見解を尊重した部分もあります。あくまでもレポートという目的のために作ったものですから、臨床現場への「そのまま」の応用は厳に慎んでください。また、本ブログをお読みの方が患者・患者関係者の場合は、本内容の利用の際には必ず主治医に相談してください。ご不明な点がありましたらブログ管理人までお問い合わせください。kiwataアットmed.kobe-u.ac.jpまで
○病態
パルボウイルス属では、パルボウイルスB19型だけがヒトに感染する。(1)伝播は通常呼吸器を介し、四肢の浮腫を伴う発疹と関節痛で発症する。パルボウイルスB19型に感染するとウイルスの細胞毒性によって、赤血球産生が停止する。免疫正常者では、ウイルス血症と赤血球産生の停止は一時的である。
○臨床症状
パルボウイルスB19型の感染は、15歳以下の小児の約半数、高齢者では約90%以上が既感染である。そのため、小児で目にすることの多い疾患ではあるが、小児と成人では出現する臨床症状が異なる。成人では、小児で典型的な伝染性紅斑の皮膚症状は呈さないことがあり、また成人の約半数は多発性関節症を呈する。成人で出現する発疹と関節痛も男女間で差があり、どちらの頻度も男性より女性で高い。(2)また、妊娠中の女性がパルボウイルスB19型に感染すると、胎児は胎児水腫・胎児死亡、感染の遷延による先天性貧血を呈することがある。
・伝染性紅斑 殆どのパルボウイルスB19型感染は不顕性感染である。症候性パルボウイルスB19型感染症の主症状は、伝染性紅斑(slapped-ceek病)である。曝露の約7~10日後に軽微な発熱を前兆とし、数日後に顔の発疹が生じる。発疹の程度や分布は様々で、他のウイルスによる発疹と鑑別するのは難しい。成人はこの伝染性紅斑様の皮膚症状を呈さないことがある。
・多発性関節症 症状を呈する関節はしばしば左右対称で、手の小さな関節、足首、膝、手首などに関節痛を認める。通常2,3週間以内で改善するが、数か月にわたって症状が繰り返すことがある。
・一過性骨髄無形性クリーゼ(TAC) 不顕性の一時的な網赤血球減少症は、パルボウイルスB19型感染症の多くで起こる。異常ヘモグロビン症、赤血球酵素異常症、自己免疫性溶血性貧血を基礎疾患にもつ患者では、赤血球産生が停止すると、重傷な貧血症を伴うクリーゼを引き起こし、患者は重篤な貧血を呈する。
・赤芽球癆、慢性貧血 慢性パルボウイルスB19型感染症は、先天性免疫不全、AIDS、リンパ増殖性障害(特に急性リンパ性白血病)と移植を含む様々な免疫抑制患者で報告されている。これらの患者は血清中のパルボウイルスB19型のIgG抗体が低値で、ウイルスDNA量は多く、骨髄では巨大前正赤芽球がしばしば散在しており、網赤血球減少を伴う貧血が持続する。赤血球以外の造血系が影響を受けることは滅多にないが、一過性の好中球減少症、リンパ球減少と血小板減少(ITP含む)が報告されている。
・胎児水腫 妊婦の年間罹患率は1%までと推計されている。妊娠中のパルボウイルスB19型感染症は、胎児水腫や胎児死亡を引き起こすことがある。経胎盤性の胎児感染症のリスクは約30%、胎児死亡のリスクは約9%である。先天性感染症のリスクは1%未満である。パルボウイルスB19型には催奇形性はないと考えられるが、眼・中枢神経障害や先天性貧血の症例が報告されている。
○診断と治療
免疫正常者の診断は、伝染性紅斑の発疹と共に現れるIgM抗体の検出による。IgG抗体は第7病日までに検出され、生涯持続する。ウイルスDNAの検出は、TACの初期または慢性貧血症の診断に用いられる。
パルボウイルスB19型に対して効果的な抗ウイルス薬はなく、治療は対症療法となる。対症療法として、TACでは輸血が必要となり、免疫抑制患者では健康供血者由来免疫グロブリン製剤(IVIg)で持続感染を治癒させることができる。しかしIVIg治療は、パルボウイルスB19型関連の多発関節炎では効果がない。持続感染を起こしているTAC患者や免疫抑制患者は、感染性を有することに留意しておくべきである。
・ 参照
1) Kaufmann B.2004”The structure of human parvovirus B19”Proc Natl Acad Sci U S A. 2004;101(32):11628
2)Anthony D. 1989,”Clinical Manifestations of Human Parvovirus B19 in Adults” Arch Intern Med. 1989;149:1153-1156
3)Harrison’s Internal Medicine, 18th edition p.1478-1481
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