偶然、ネットで見つけて、「おお、これはすごい。是非買わねば」と思っていたら送られてきた。あ、そういえばぼくも共著者でした。忘れてたぜ。
日本の感染症診療の問題点はたくさんある。たくさんあるが、特に中でも問題なのが、「検査の解釈」が苦手なドクターが多いことだ。そこに検査がある、だから検査をする。そういうトートロジーで検査をしている場合がとても多い。検査は手段であり、目的ではないのに、検査が目的化する。あるいは検査陰性化を目的化する。こういう誤謬は初期研修医からその道何十年のベテランドクターまで、外科医にも内科医にも蔓延する日本のドクター最大の欠点(のひとつ)である。よく、感染症のプロの世界でCRPが問題視されるが、それはCRPという検査の属性そのものというより、その使われ方があまりに稚拙である点に帰属する。
検査の教科書にも問題が多い。検査の成り立ちや正常値ばかり書いていて、「どう解釈するか」に言及が少な過ぎるのが問題である。例えば、いま感染症学会専門医試験のためのテキストを読んでいるけど、検査のところの記載に酷いものが多い。感度・特異度にまったく言及がない、添付文書のデータをそのまま「感度・特異度」として書いている、など「解釈の方法」についての無配慮、誤記があまりにも多い。あのテキストで専門医を作るのはとても心配だ。
これは、日本の検査医学(とくに感染症)において、患者のファクター、症候の解釈学、検査前確率といったコンセプトが非常に希薄だったため、検査室とベッドサイドがうまくかみあっていなかったことが遠因である。今でも、残念ながら、検査室と臨床現場にまったくコミュニケーションがない病院も多い。検査技師と医師が日常的に対話しない病院に、質の高い診療は期待できない。
で、話がずれたけど、日本において臨床検査医学と臨床感染症学の両者に一番目配りが効いているのは、なんといっても細川直登先生だとぼくは思う。検査に対する専門的な知識、経験、臨床医学コンセプトの理解、アプリケーションと実に素晴らしい。本書は各セクションがとても読みやすく、各執筆者も編者が厳選した一流の「検査解釈者」たちだ。梅毒検査、百日咳抗体、カテ先培養など、誤用されやすい検査のアプリケーションとピットフォールが簡潔にまとめられている。若手からベテランまで、ぜひ一冊手元において、ふだんオーダーしている検査のピットフォールを一つ一つチェックしてみてほしい。
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