粟粒結核の診断
【はじめに】
粟粒結核の診断においては、まず疑うことが非常に重要である。なぜなら、粟粒結核は治療されなければ致死的であるが、初期に適切に治療されれば順調に治癒する疾患であるからである。しかし、医師の疾患への疑いが不十分であること、多くの例で非特異的な症状を呈することなどからしばしば診断が遅れることがある。
【診断】
粟粒結核以外の疾患でも粟粒結核同様の症状や徴候を呈することがある。レジオネラ症、ノカルジア症、サイトメガロウイルス感染、サルコイドーシス、アミロイドーシス、悪性リンパ腫などが鑑別診断として挙げられる。粟粒結核の確定診断は、培養検査でM.tuberculosisが分離及び同定されるか、核酸増幅法でDNAの特異配列の同定を行うことによりなされる。
1)胸部X線写真
まずは、症状や胸部X線写真所見で結核感染を疑う。胸部X線写真では、粟粒、網状顆粒状陰影がしばしば見られるが、病期初期、HIV患者では正常像を呈することも多い。
2)喀痰塗抹培養検査
抗酸菌を検出するための検査として塗抹検査、培養検査を行う。粟粒結核においては、喀痰塗抹検査の感度は非常に低く、20〜40%のみで陽性である。また培養検査でも30〜65%で陽性と感度が低く、検出までに4〜8週間を要するという点が問題である。塗抹検査においては、Ziehl-Nielsen染色ではなく、検出率の高いオーラミンOによる抗酸菌蛍光染色を行うべきである。
また、検体を一ヵ所から採取する場合に比べ、数ヵ所から採取する場合は検出率が高くなるため、喀痰、尿、胃酸、胸水、腹水における抗酸菌の存在を調べる必要がある。脳脊髄液は塗抹検査陽性となることは少なく、神経学的所見が出現した場合のみ検査すべきである。胃液の培養検査では、しばしば陽性となることもあるが、喀痰塗抹検査陰性の場合にどれほど陽性となるのかはっきりしないということや、採取の際に苦痛を伴うということから、喀痰塗抹検査が行えない場合や陰性だった場合に行うべきとされている。以下に各種検体の塗抹、培養検査の感度を表にまとめる。
|
喀痰 塗抹 |
喀痰 培養 |
BAL 塗抹 |
BAL培養 |
胃液 塗抹 |
胃液 培養 |
尿 塗抹 |
尿 培養 |
脳脊髄液塗抹 |
脳脊髄液培養 |
Maartens,1990 |
33% |
62% |
27% |
55% |
43% |
100% |
14% |
33% |
8% |
33% |
3)核酸増幅法
結核菌の同定を行うための検査として核酸増幅法が挙げられる。数時間という短い時間での診断が可能となる。HIV関連粟粒結核の場合は、多くの例で陽性となるが、非HIV関連の場合、検出率は低いとされている。
4)気管支鏡検査
塗抹検査陰性の場合には気管支肺胞洗浄(BAL)による気管支鏡検査、ブラッシング、経気管支肺生検(TBLB)が有用である。侵襲性やコストの関係から、気管支鏡検査を進める前に、喀痰以外にも何ヵ所か検体を検査するのが好ましい。急性の経過をたどる患者や、迅速に培養検査が行えない場合は、気管支鏡検査を迅速に行うべきである。しかし、患者が亜急性、もしくは慢性の経過をたどっており、喀痰塗抹検査で陰性を示す場合、培養検査陰性とわかるまで1~2週間気管支鏡検査は遅らせてもよいとされている。
5)病理
粟粒結核の迅速診断において重要な役割を持つ。生検を行う組織に関しては、骨髄生検や経気管支生検よりも肉芽腫、乾酪性肉芽腫が認められたということで、肝生検が最もよいとされている。
以上述べた方法が、粟粒結核の診断に用いられる方法である。しかし、適切な治療が行われなければ粟粒結核は致死的な疾患であるため、画像所見などから粟粒結核が強く疑われるにも関わらず、結核菌の存在を同定できず、他疾患が否定される場合、臨床診断として化学療法を開始する場合もある。
【参考文献】
ハリソン内科学 第3版 メディカル•サイエンス•インターナショナル
Up To Date Clinical manifestations ; diagnosis ; and treatment of military tuberculosis
レジデントのための感染症診療マニュアル第2版 医学書院
Diagnostic Standards and Classification of Tuberculosis in Adults and Children , American Thoracic Society
コメント
コメントフィードを購読すればディスカッションを追いかけることができます。