BSL感染症内科レポート
眼梅毒
眼梅毒として最もよくみられるのはぶどう膜炎であり、前部,中間部,後部,もしくは全体に起こりうる。前部ぶどう膜炎の3分の2が肉芽腫性、また半分が両側性である。後部ぶどう膜炎で最も典型的なのは多病巣性の網脈絡膜炎である。2期または3期梅毒でみられ、2期では急速な、3期では緩徐な視力の低下をきたす。
その他に、角膜実質炎,硝子体炎,視神経炎や瞳孔異常などがみられることがある。
眼梅毒の患者は神経梅毒を合併していることが多い(約40%)ため、全例に対して腰椎穿刺を施行するべきである。また、HIVの検査も全例に対して行うべきである。HIV感染者では発症が急速である,治療に対する反応が遅いなど、非感染者と臨床像が異なるとされる。
[診断]
梅毒血清反応が診断に有用であり、非Treponema試験とTreponema試験に分けられる。
・非Treponema試験
梅毒に感染するとリアゲンと呼ばれる脂質と反応する抗体を産生する。この抗体を検出するのがVDRL,RPR,ガラス板法などである。
・Trepoema試験
T.pallidum抗原,またはその組換え抗原に対する抗体を測定する。TPHA(TP感作赤血球凝集反応)やFTA-ABS(蛍光抗体法)などである。
非Treponema試験の感度は第1期で約75%,第2期で100%であるが、第3期では感度が非常に低い。しかし非Treponema試験(定量法)の値は病勢を反映すると考えられる。一方、Treponema試験は感度・特異度ともに非Treponema試験より優れており、感染初期や第3期梅毒でも80%以上の感度を示すが、一度陽性になれば陰性化しない。よって、Treponema試験で梅毒感染の有無を決定し、非Treponema試験で活動性・治療の効果を判断するのがよいと考えられる。
その他に、暗視野顕微鏡検査や直接蛍光抗体法も用いられる。
[治療]
どの病期においても、ペニシリンGが第一選択薬である。T.pallidumは低濃度のペニシリンGによって死滅するが、病原体の増殖が非常に遅いために長期間の服用が必要である。基本的には、血中にペニシリン0.03IU/mlの濃度を1週間以上保つことが早期梅毒の治療に必要とされる。ただし、筋注用ペニシリンGが日本国内では入手できないため、次善の策をとらざるを得ない。
・第1期,第2期,潜伏1年未満
1st:ペニシリンGベンザチン 240万単位筋注
2nd:アジスロマイシン 2g 1回経口投与 (耐性の問題あり)
・罹患期間1年以上
1st:ペニシリンGベンザチン 240万単位 週1回筋注×3回 (計720万単位)
2nd:セフトリアキソン 1g 1日1回静注×14日間
・神経梅毒(眼梅毒を含む)
1st:ペニシリンG 1800~2400万単位/日 持続静注,または300~400万単位静注 4時間ごと×10~14日
梅毒の治療開始後に、発熱,悪寒,筋肉痛,頭痛,頻脈,呼吸数増加,好中球増加,および血管拡張による軽度の低血圧などの反応が起こることがあり、Jarisch-Herxheimer反応と呼ばれている。T.pallidumの死滅によって生じるリポ蛋白が放出されることによると考えられており、対症療法を行う。軽度で一時的であれば抗炎症療法は不要である。
治療に対する反応と効果は定量的なVDRLまたはRPR抗体価によって判定するべきであり、値が4倍以上下がれば改善とする。最終的に陰性化あるいは安定化することを確認する。治療後血清学的検査を行うことはすべての梅毒患者、特にHIV併発例では重要である。
[参考文献]
ハリソン内科学 第3版
レジデントのための感染症診療マニュアル 第2版
サンフォード感染症治療ガイド 2011 (第41版)
Mandell, Douglas, and Bennett's Principles and Practice of Infectious Diseases: 7th Edition
コメント
コメントフィードを購読すればディスカッションを追いかけることができます。