書こうと思っていたら偶然出版社から依頼を受けたので昨日書き上げた。許可をいただいたのでブログにも掲載する。
書評 ティアニー先生の ベスト・パール
まず本書を開いたとき、「字が少ないな」と思ってはならない。
近年、医療情報量は爆発的に増加した。ウェブ上コンテンツの充実により一疾患の解説を「5000字以内にまとめて」という制約はもはやない。そこで「うちのはこんなにコンテンツがありまっせ」という量的評価が行われるようになる。「この教材には○○のことがカバーされていない」という形でコンテンツは貶されるようになる。
しかし、パール集のようなコンテンツには量的評価はなじまない。
我々は芭蕉の句集や島田ゆかの絵本、茨木のり子の詩集を開いて「字が少ない」と貶さない。「そういうもの」だからである。句集や絵本や詩集は字の多寡で評価されるものではない。そういう量的評価しか書物に求めることができない人は、東京都の電話帳でも読めばよいのだ。
パールは、とりわけ優れたパールは、搾り取った果実の一番美しい一滴である。パールが盛りだくさん、というのは形容矛盾であり、時々回診時にポロリと(そしてズバリと)「50歳以上の患者で多発性硬化症を診断したら、真の診断にはほかにある」と上級医の口から放たれたとき、パール(真珠)は美しく輝くのである。毎日大量に繰り返されるステイトメントはパールとは呼ばない。それはときに陳腐ですら、ある(「入院患者には必ずレントゲンと心電図とっておけよ」)。
本書は、ポケットマニュアルのようにセカセカとスピーディーに開く本ではない。穏やかな心持ちのときにゆっくりと読むのがよい。リズミカルに英文を読んでみるのも楽しい。声に出して読めばなお楽しい。Defined properly, dysphagia is one of the few symptoms in medicine for which an anatomic correlation nearly always present; too often it is this disease. (On Esophageal Cancer)。そして、箴言の重みは臨床経験の蓄積とともに、実際の患者と照らし合わせてさらに光を増す。5年後、10年後に読み直すとさらにその輝きが増しているはずだ。すぐれたワインのように。
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