これも大きなテーマでしたが要を得た上手なまとめだと思います。よく勉強しないとこういうメリハリはつきませんね。マイナーミステイクはあるけど気にならない程度です。Kucers使うとは渋い。
ST合剤 (sulfamethoxazole / Trimethoprim)
ST合剤はスルファメトキサゾールとトリメトプリムの合剤である。
【作用機序】葉酸は、細菌がDNA合成するために必要で細菌自ら合成する。ST合剤は葉酸代謝を2段階で阻害する。2段階であるため耐性出現の可能性が低くなると考えられているが、ST合剤の耐性はいまや深刻な問題となっている。
PABA → dihydropteroate → Dihydrofolate → tetrahydrofolate → 核酸DNA合成
↑ ↑
dihydropteroate sythetase dihydrofolate reductase
↑スルファメトキサゾールが阻害 ↑ トリメトプリムが阻害
消化管からの吸収良好。静注と同様の血中濃度が得られ、また、関節液、胸水、腹水では血中濃度の80%、髄液は50%が得られる。腎臓から排泄される。胎盤も通過し、胎児血液、羊水、母乳にも移行する。
【適応】 →特にST合剤を第一に選択するもの
l 好気性グラム陰性桿菌
・第一選択 Aeromonas hydrophila, Burkholderia cepacia, B. pseudomallei, Enterobacter aerogenes, E.cloacae, Haemophilus influenza, Hafnia alvei, Klebsiella spp., Plesiomonas shigelloides, Shigella, Stenotrophomonas maltophilia, Tropheryma whippelii, Yersinia enterocolitica ・代替薬としてLegionella spp., Salmonella spp. S.typhi, Bordetella pertussis
l 好気性グラム陰性球菌 ・第一選択 Moraxella catarrhalis ・代替薬として Neisseria meningitides
l 好気性グラム陽性桿菌 ・代替薬として Listeria monocytogenes
l 好気性グラム陽性球菌 ・第一選択 Staphylococcus saprophyticus
・代替薬として Staphylococcus aureus/MSSA, Pneumococcus/PSSP
l 抗酸菌 ・第一選択 Mycobacterium marinum・代替薬として M.fortuitum, M.kansasii, M.szulgai
l その他 ・第一選択薬 Nocardia asteroids, N.braziliensis, Pneumocystis jiroveci 腸管原虫症 Cyclospora, Isospora
・代替薬として Bartonella henselae, B. quintana, Chlamydia trachomatis
レジデントのための感染症診療マニュアル 第2版 p.213 表Ⅱ-35 改変
※MRSAは感受性であっても有効性が不安定であるため重症感染症では使用しない。ただし、市中型MRSAは感受性があれば使用可能。腸球菌も感受性であっても臨床的有効性とは一致しないとされる。
- 尿路感染症 ST合剤が使用される最大の用途。※耐性化がすすんでいるため、感受性検査を適宜行う。
- 呼吸器感染症 ニューモシスチス肺炎(PCP)には第一選択。その他、慢性気管支炎COPDの急性増悪、市中肺炎(特にLegionella micdadei, L.pneumophilaにキノロンやマクロライドを使用できないとき)。
- その他 Whipple病、ノカルジア症、ブルセラ症、類鼻疽、(Wegener肉芽腫 -特に肺に限局したもの-)
【予防投与】・HIV患者のPCP、トキソプラズマ症の予防。菌血症や肺炎、副鼻腔炎を予防するという報告もある。
・免疫不全下でステロイド内服中、リンパ球減少症のためテモゾロミド・放射線療法で治療中、急性リンパ性白血病、同種造血幹細胞移植後の免疫抑制治療中、実質臓器移植後免疫抑制治療中などのPCP予防。
・胆管疾患や胆道異常の胆管炎の再発予防、腎移植後の尿路感染症や高度免疫抑制下のPCPの予防の効果の報告もある。
・肝硬変患者の特発性細菌性腹膜炎の予防(ノルフロキサシンよりもコスト効率がよく、キノロンの耐性のリスクが少ない)。
【副作用】一般的な副作用である消化器症状(嘔気、嘔吐、食欲不振)や皮疹、蕁麻疹から、重篤なものは血液毒性、肝障害、重度皮膚障害などがある。そのほか発熱、血球減少、高K血症(遠位尿細管からの排泄が妨げられる)、Cr上昇(腎尿細管のCr分泌を阻害)、過敏性反応(丘斑疹・Stevens-Johnson症候群・多形成紅班・血管炎・薬剤性ループス・血清病様症候など -特にHIV患者において-)、頭痛、無菌性髄膜炎・脳炎など。
※HIV患者では多くの副作用が現れ、使用を継続できないこともあり、脱感作療法もよく行われる。
※胎児ビリルビン上昇(核黄疸の危険)のため、妊娠末期、生後2ヶ月は避ける。母乳に移行するため、授乳中は使用しない。
【相互作用】類似性のため併用薬を結合蛋白から遊離させ活性を増すので、併用する場合ワルファリンの投与量は減少させ、メトトレキサート使用時にはST合剤使用を避ける必要がある。また、スルホニル尿素、サイアザイド利尿薬の効果を上げる。インドメタシン、サリチル酸、プロベネシドは、ST合剤の効果・毒性を増す。
【まとめ】ST合剤は、一般細菌だけでなく、他の抗菌薬では無効な細菌や原虫、薬剤耐性菌に有効な場合もあり、特殊な疾患にも第一選択とされる。また、内服も静注と同じ効果があるため、外来治療にも使用できる利点がある。しかし、耐性菌の出現や副作用が強いという欠点もある。特にHIV患者では副作用により投与中止となる場合も少なくない。このような欠点を念頭に、患者や原因菌や疾患に応じて、うまくST合剤を使用することが求められると考える。
【参考文献】
1.レジデントのための感染症診療マニュアル 第2版
2.Kucers' The Use of Antibiotics Sixth Edition A Clinical Review of Antibacterial, Antifungal and Antiviral Drugs
3.Up To Date: Trimethoprim-sulfamethoxazole (co-trimoxazole): Drug information
: Treatment and prevention of Pneumocystis pneumonia in non-HIV-infected patients
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